一人親方は、万が一の事故に備えて公的保険以外の保険へ加入し、補償の選択肢を増やすことが大切です。
損害保険には多くの種類があるため、必要な保険の判断が難しい場合もあるでしょう。
今回は、一人親方が加入すべき損害保険や種類、選び方のポイントについて解説します。
損害保険に加入すべき理由を知りたい人や損害保険への加入を悩んでいる一人親方は、本記事を参考にしてください。
Contents
一人親方は損害保険に加入すべき?
一人親方は損害保険に加入することで、損害賠償責任を問われた際に必要な補償を受けることができます。
建設業は事故リスクの高い業種であり、労災事故が発生した場合、法人でも一人親方でも賠償責任額は変わらないため、損害保険に加入してリスクに備えておくことが大切です。
損害保険とは
損害保険とは、事故や災害により発生した損害に対する補償を受けられる保険です。
保険を大きく分類すると生命保険が取り扱う第一分野の「生命保険」と、損害保険会社が取り扱う第二分野の「損害保険」に分けられます。
生命保険と損害保険のどちらの分野にもまたがる「医療保険」は第三分野に分類され、損害保険会社でも取り扱われます。
一人親方が入るべき損害保険の種類
仕事のリスクに備えて一人親方が入るべき損害保険は、工事保険・自動車損害賠償責任保険・自動車保険です。
ほかにも、働けなくなった場合のリスクに備えた所得補償保険・医療保険や、事務所や自宅などの資産を守るための火災保険・地震保険があります。
事業運営に不可欠な保険
一人親方は、建設工事での事故による損害に備えて「工事保険」への加入を検討しましょう。
工事保険は、①第三者のヒトやモノへの損害、②負傷や死亡時などヒトへの損害、③資材や工事対象のモノへの損害を対象とした補償があります。
事業運営に不可欠とされる、工事保険・自動車損害賠償責任保険(自賠責)・自動車保険(任意)について、解説します。
工事保険
工事保険とは、工事現場で発生する事故に備えて任意で加入する保険です。
一人親方が加入すべき、おもな工事保険について表にまとめました。
損害対象 工事保険の種類
第三者のヒトやモノ 請負業者賠償責任保険、生産物賠償責任保険(PL保険)
負傷や死亡時などヒト 使用者賠償責任保険、労災上乗せ保険
資材や工事対象のモノ 建設工事保険、土木工事保険など
請負業者賠償責任保険
請負業者賠償責任保険は、業務中に発生した対人・対物事故に対して与えた損害を補償する保険です。
作業中に通行人にけがをさせた場合は、治療費や慰謝料、脚立を倒して近くの車に傷をつけた場合は、修理代などが補償されます。
補償期間は1年間の包括契約か、特定の工事期間中のスポット契約で、保険会社やプランによって補償範囲が異なります。そのため、特約を付加して補償範囲を広げるとより安心です。
管理財や借用財・支給財に対する物損壊補償特約や、工事遅延損害特約・地盤崩壊危険補償特約などがあるので、必要に応じて特約の追加を検討しましょう。
生産物賠償責任保険(PL保険)
生産物賠償責任保険(以下、PL保険)は工事完了後、第三者に引き渡した後の事故で発生した損害を補償する保険です。
PL保険は第三者の人やモノに対する補償で、故意にモノを損壊した場合や人体に悪影響を及ぼす物質であるアスベストを使用した工事・それを起因とする病気の場合などは補償対象外です。
PL保険に加入していても一定額の免責金額があり、自己負担額がなくなるわけではないため、注意しましょう。
使用者賠償責任保険
使用者賠償責任保険は、業務上の負傷や疾病に対して事業主が負う法律上の賠償責任を補償する保険です。
従業員を雇用している一人親方を対象に、業務災害によって被災者や遺族から損害賠償請求を受けた際に必要な補償を受けられます。
建設工事保険
建設工事保険は、建築工事中に発生する火災や爆発などの災害や盗難・作業ミスによる損害を補償する保険です。
元請けとして工事を請け負う一人親方は加入を検討しましょう。
また、土木工事を請け負う一人親方には、土木工事保険があります。
自動車損害賠償責任保険(自賠責)
自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険)は強制加入のため、未加入では車検を受けられず、法律で罰せられます。
自賠責保険の目的は自動車事故による被害者の救済で、補償対象は対人事故の賠償損害のみのため、自分の車の故障や運転者自身のケガ、事故の相手の車に与えた損害などは補償されません。
事故によっては自賠責保険の支払限度額を超える場合があるため、併せて自動車保険へ任意加入すると安心でしょう。
自動車保険(任意)
自動車保険は、対人事故の賠償損害において自賠責保険で不足する補償を上乗せできる任意保険です。
自動車保険では、対物事故の賠償損害や運転者自身のケガ、自動車自体の損害などが補償されます。
自身の生活を守るための保険
一人親方は働けなくなった場合のリスクに備えて、自身の生活を守るための保険に加入しましょう。
所得補償保険や損害保険会社で扱われる医療療保険について解説します。
所得補償保険
所得補償保険は、けがや病気により働けなくなった際の所得を補償する保険です。
国民健康保険では、業務以外のけがや病気によって休業した場合は傷病手当金が支給されないため、働けなくなった時のリスクが大きい一人親方は加入しておくと安心です。
長期にわたり休業する場合は、収入を補う「就業不能保険」や被保険者が亡くなった場合に遺族が年金形式で保険金を受け取れる「収入保障保険」などもあります。
医療保険
医療保険には、市区町村が運営する国民健康保険、同業者同士が集まった国民健康保険組合(組合国保)があります。
労災保険特別加入制度は、業務以外でのけがや病気には対応していないため、高額な治療費を想定して医療保険に加入しておくと安心です。
健康保険組合が定める事業を営んでいることを加入条件に、左官業や電気工事業などで保険組合が細分化され、国民健康保険よりも組合保険のほうが保険料は安いことが多いようです。
資産を守るための保険
事務所や自宅などの資産を守るための火災保険や地震保険について解説します。
火災保険
火災保険は、災害や事故による被害を補償する保険で、地震が原因の火災による損害、地震により延焼や拡大した損害は火災保険では補償されません。
火災保険は、屋根や壁・窓・ガレージや物置などの付帯設備を含む建物自体の「建物補償」と、家具や家電製品など動かせるモノを対象とした「家財補償」の2つの枠組みから選びます。
請求額が免責金額よりも低く設定されている場合は給付金を受け取れず、経年劣化や故意に引き起こした損害は対象外です。
地震保険
地震保険は、地震による火災・損壊・埋没・流失による損害を補償して被災後の生活再建を支える保険です。
基本的に、火災保険とセット契約となり、損害の程度に応じた割合が支払われます。
保険金額の限度額は建物が5000万円、家財は1000万円で、火災保険の30~50%の範囲内で地震保険の保険金額を決めます。
損害保険の選び方のポイント
一人親方にとって損害やトラブルによる経済的リスクは大きく、必要な補償を把握して適切な保険を選択することが重要です。
損害保険の選び方のポイントについて解説します。
補償範囲と契約期間が適切か確認する
一部の事故が補償範囲外の場合があるため、契約時の内容と現状必要な補償内容が揃っているかを確認し、業務内容の変化に応じて補償内容を見直すことが重要です。
一般的に、保険の契約期間は1年間の包括契約か、特定の工事に関するスポット契約となるため、定期的に見直して自分の状況に合った補償を選択しましょう。
業務内容や売上高により補償内容や保険料が変わる場合もあるため、不要な特約をカットしてコストをおさえることも大切です。
保険料と補償額のバランスを考慮する
補償額が高いと安心できる分、保険料は高くなるため、毎月の収入状況や貯金額とのバランスを考慮して選びましょう。
保険料は補償内容や特約の有無・年間売上高などによって変動し、毎月支払う必要があります。
必要最低限の補償額では補償が不十分な可能性があるため、補償額と補償内容のバランスを考慮することが大切です。
特約や付帯サービスやサポート体制を確認する
特約や付帯サービスは各保険会社の商品によって異なるものの、上手く利用すると保険料をおさえられる可能性があります。
複数社で特約や付帯サービスを比較して内容が充実した補償内容を選ぶとよいでしょう。
事故発生時の迅速な対応や問い合わせ・手続きがスムーズかなどを事前に確認しておき、サポート体制や口コミ・実績などを参考に信頼できる保険会社を選ぶと安心です。
「一人親方の損害保険」に関するよくある質問
一人親方の損害保険に関するよくある質問についてまとめました。
一人親方が加入すべき損害保険の月額相場は高い?
補償範囲や契約期間、加入する保険会社によって異なるものの、建設業は労災リスクが高い業種のため、損害保険の月額相場は高い傾向にあります。
一人親方が保険料をおさえるためには、年払い割引を利用したり、無駄な特約を見直してカットしたり、保険会社ごとのプランを比較して支払方法や事業に適した補償内容を選ぶことが大切です。
一人親方が加入する損害保険料は経費にできる?
一人親方が加入する損害保険料は、事務所や営業車など事業に関わる支払いであれば経費にできます。
事業とプライベートの両方に関わる保険の場合は「家事按分」として、支払った保険料の一部を事業に必要な割合での計上が認められます。
経費にできる保険料とできない保険料を表にまとめました。
経費にできる保険料 | 経費にできない保険料 |
自動車保険(事業用)
火災保険(事務所や倉庫など) 地震保険(事務所や倉庫など) |
生命保険
国民年金保険 国民健康保険 火災保険(自宅の場合) 地震保険(自宅の場合) 旅行保険(一人親方や家族の場合) |
一人親方自身や自宅などが対象の保険は経費にできないため、家事按分する際は経費にした経緯の証明が必要です。
まとめ
一人親方が加入すべき損害保険は、請負業者賠償責任保険や生産物賠償責任保険(PL保険)・使用者賠償責任保険・建設工事保険などです。
負傷した際のリスクに備えて所得補償保険や医療保険・資産を守るための火災保険・地震保険への加入も検討しましょう。
建設業は事故リスクの高い業種であるものの補償が不足しやすいため、一人親方として働くうえで必要な補償を見きわめて追加してください。
損害保険を選ぶ際は、補償範囲と契約期間、特約や付帯サービスやサポート体制を確認し、保険料と補償額のバランスを考慮することがポイントです。