一人親方として働いていると、病気やけがで高額な医療費がかかる場合の生活費や事業資金への影響に不安を覚える方もいるでしょう。
こうしたときに頼りになるのが「高額療養費制度」です。
この制度を利用すれば、健康保険適用の治療費については、年齢や所得に応じた一定の上限を超えた分が払い戻されます。
本記事では、高額療養費制度の仕組みや自己負担の上限、注意点、医療費控除との違いについて分かりやすく解説します。
高額療養費制度について知りたい一人親方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
高額療養費制度とは?
高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費が一定の金額を上回るとその超過分が払い戻される仕組みです。
対象となるのは、健康保険が適用される診察や薬代です。
計算は月単位で行われるため、別々の月にかかった費用を合算することはできません。
制度の利用によって、医療費の自己負担額は年齢や所得に応じて定められた上限までにおさえられます。
病気やけがで多額の医療費が発生した場合でも、患者やその家族の経済的な負担を和らげるために設けられた制度といえるでしょう。
参照:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」
高額療養費制度の自己負担上限金額
高額療養費制度では、1ヶ月あたりに支払う医療費の自己負担には上限が設けられており、その金額は年齢や所得水準によって変わります。
69歳以下の人の場合、下記のように収入ごとに区分が分かれています。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
ア | 年収約1,160万円超 健保:標報83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 |
25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% |
イ | 年収約770万円~約1,160万円 健保:標報53万円~79万円 国保:旧ただし書き所得600万円~901万円 |
16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% |
ウ | 年収約370万円~約770万円 健保:標報28万円~50万円 国保:旧ただし書き所得210万円~600万円 |
8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% |
エ | 年収約370万円まで 健保:標報26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 |
5万7,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 3万5,400円 |
参照:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」
ここでいう「標報」とは標準報酬月額の略で、給与に基づいて区分される目安です。
一方、国民健康保険に加入している個人事業主の場合は「旧ただし書き所得」で判断されます。
これは前年の所得から住民税の基礎控除43万円を差し引いた金額です。
個人事業主であれば、確定申告書に記載される所得金額から43万円を差し引いて計算するとわかりやすいでしょう。
実際には売上から経費を引いた額が基準と考えられるため、一人親方などはこちらで判断するとよいでしょう。
自己負担をより減らす仕組み:多数回該当
高額療養費制度には、一定の条件を満たすと自己負担がさらに軽くなる「多数回該当」という仕組みがあります。
これは、過去12ヶ月の間に同じ世帯で高額療養費制度を3回利用した場合、4回目以降に自動的に適用されるものです。
通常の自己負担上限額よりも引き下げられるため、入退院や治療が繰り返し必要な人にとっては大きな助けとなるでしょう。
69歳以下の方については、次のように上限額が変わります。
所得区分 | 本来の負担の上限額 | 多数回該当 |
年収約1,160万円超 | 25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% | 14万100円 |
年収約770万円~約1,160万円 | 16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% | 9万3,000円 |
年収約370万円~約770万円 | 8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% | 4万4,400円 |
年収約370万円まで | 5万7,600円 | 4万4,400円 |
住民税非課税者 | 3万5,400円 | 2万4,600円 |
参照:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」
この仕組みを理解しておくことで、長期的に医療費がかかるケースでも安心して治療に臨めるでしょう。
高額療養費制度を利用するための手続き方法
高額療養費制度を利用するには、加入している医療保険(市区町村の国民健康保険、協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、後期高齢者医療制度など)に申請書を提出する必要があります。
申請は窓口への提出や郵送が一般的で、場合によっては医療機関の領収書の添付を求められるかもしれません。
保険証に記載されている情報を確認すれば、自分がどの医療保険に加入しているかが分かります。
また、保険者によっては申請を勧めてくれるところや、申請しなくても自動的に払い戻しが行われる仕組みを導入している場合もあります。
申請の流れは加入している医療保険ごとに異なるため、公式サイトや窓口で確認しましょう。
参照:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」
高額療養費制度を利用する際の注意点
高額療養費制度は、医療費の負担を大きく軽減してくれる非常に頼りになる仕組みです。
しかし、この制度をスムーズかつ最大限に活用するためには、事前に知っておくべきいくつかの注意点があります。
ここでは、4つの注意点を解説します。
食費や差額ベッド代は含まれない
高額療養費制度が適用されるのは、公的医療保険が適用される治療に限られます。
そのため、入院中の食事にかかる費用や、個室などを希望した際の差額ベッド代、先進医療にかかる技術料などは対象になりません。
どの費用が制度の対象となるのかを、あらかじめ把握しておくことが大切です。
一時的な負担がかかる
高額療養費制度は、一度支払った医療費が後から戻ってくる仕組みです。
原則として、会計時には窓口で自己負担分を全額支払わなければなりません。
還付金が実際に振り込まれるのは、申請からおよそ3ヶ月後が目安となります。
そのため、一時的に医療費を立て替えるための資金を用意しておくと安心です。
高額医療費貸付制度
一時的な支払いが経済的に難しい場合は、「高額医療費貸付制度」が役立ちます。
これは、後で戻ってくる高額療養費の一部(多くは8割程度)を無利子で前借りできる制度です。
また、事前に「限度額適用認定証」を取得して医療機関の窓口で提示すれば、最初から自己負担限度額までにおさえることが可能です。
加入している健康保険によって利用条件が異なるため、ご自身の保険組合や市区町村の担当窓口に問い合わせてみましょう。
資金面に不安があるなら、早めにこれらの制度の活用を検討することをおすすめします。
複数の医療機関の医療費を合算するときは下限値がある
1つの医療機関での支払いが上限額に達しなくても、同月内に複数の病院や薬局でかかった費用を合計して申請できます。
ただし、69歳以下の方には条件があり、合算できるのは1件あたりの自己負担額が2万1,000円以上のものに限られます。また、入院と外来、医科と歯科はそれぞれ別々に計算する必要があります。
この合算ルールを知っておけば、複数の医療機関を利用した場合でも、制度を最大限に活かせるでしょう。
消滅時効を過ぎないようにする
高額療養費の申請には、診療を受けた月の翌月1日から2年という時効が設定されています。
この期間を過ぎると払い戻しを受ける権利がなくなってしまうので注意が必要です。
逆に言えば、2年以内であれば過去にさかのぼって申請することも可能です。
せっかくの制度を無駄にしないためにも、医療費の領収書はきちんと保管し、忘れずに手続きを進めるように心がけましょう。
医療費控除と高額療養費制度の違い
医療費の負担を軽くする制度には医療費控除もありますが、高額療養費制度とは性質が異なります。
医療費控除は、年間の医療費が一定額を超えると確定申告で所得税や住民税が還付・軽減される税金の仕組みです。
こちらは保険適用外の治療費も合算できるのが特徴です。
申告の際は、高額療養費や保険金で補填された額を差し引いて計算します。
一方、高額療養費制度は、加入している健康保険から直接お金が払い戻される給付制度です。
両者は目的も手続き先も異なる、それぞれ独立した制度です。
うまく併用することで、医療費の負担をより効果的におさえられるでしょう。
高額療養費制度ではカバーしきれないケースもあるため労災保険に特別加入しよう
高額療養費制度は非常に心強い仕組みですが、仕事中のけがや病気のリスクへの備えとしては、労災保険への特別加入が有効です。
労災保険が適用されれば、業務に起因するけがなどの治療費は原則として自己負担がありません。
さらに、療養のために仕事を休んだ際の所得補償も受けられます。
個人で事業を行う一人親方のような働き方では、万が一の際の備えが重要になります。
治療費の心配なく療養に専念するためにも、労災保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。
「一人親方団体労災センター」では、月々500円の組合費で全国どこからでも加入手続きが可能です。
ご自身の安心のため、公的な補償制度をしっかり整えておきましょう。
まとめ
高額療養費制度は、医療費が高額になった際に自己負担額を一定の上限までおさえられる仕組みであり、個人事業主である一人親方も利用できる制度です。
所得区分に応じて上限額が決められているほか、頻繁に利用すると負担がさらに軽減される「多数回該当」の仕組みもあります。
ただし、差額ベッド代や食事代などは対象外であり、払い戻しまでに時間がかかる点には注意が必要です。
その際には貸付制度や限度額適用認定証の活用も検討するとよいでしょう。
制度の仕組みを正しく理解し、早めの申請を行うことが、安心して医療を受けるための大きな支えとなります。