一人親方の中には、家族従業員と一緒に現場に出る方も少なくありません。家族従業員は労働基準法が定める労働者に該当しないため、各種保険などの扱いに注意が必要です。
今回は、一人親方が家族従業員を雇う際の注意点をまとめます。また、事業拡大を見据えて一般従業員を雇う際にするべきことについても解説します。
家族従業員と一般従業員を雇う際の注意点を比較しつつ、誰を雇うかを決めるとよいでしょう。
Contents
一人親方が家族従業員を雇う際の注意点
一人親方の中には、家族従業員とともに現場に出る方も少なくありません。また、事務仕事などを親族にお願いする場合もあるでしょう。
しかし、家族従業員は原則として一般従業員とみなされないため、社会保険などの取り扱いに注意が必要です。ここでは、一人親方が家族従業員を雇う際の注意点を解説します。
同居の家族従業員は労働者に該当しない
一人親方が家族従業員を使用する場合、同居の家族は労働者に該当しない点に注意が必要です。
労働基準法の第116条には、以下のように記述されています。
この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
引用:e-Gov法令検索「労働基準法第百十六条② 」
ここでいう「同居」とは、住居と生計を共にしている状態のことです。また、「親族」は民法上の親族のことで、6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族を指します。
以上から、同居の親族である家族従業員のみを使用する場合、労働基準法は適用されないことがわかります。労働者とみなされない家族従業員に関しては、一般労働者とは各種保険の扱いが異なるため事前に確認しましょう。
家族従業員の各種保険はどうなる?
一人親方が家族従業員を雇う際の各種保険はどうなるのか、以下にまとめます。
- 雇用保険
一人親方と同居している家族従業員は、労働基準法の「労働者」に該当しないため、雇用保険には加入できません。
個人事業主と同様にみなされ、仕事をやめても失業給付は受けられないため注意が必要です。 - 医療保険
家族従業員は、市町村が運営する国民健康保険か建設国保に加入することになります。
一般の会社員のように、協会けんぽなど健康保険には加入できません。 - 年金保険
家族従業員の年金保険に関しては、厚生年金には加入できず国民年金ヘの加入となります。
20歳以上60歳未満の家族従事者は国民年金の加入義務があり、60歳以上の方は必要に応じて任意加入が可能です。 - 労災保険
一人親方と家族従業員は、労働基準法の「労働者」に該当しないため、労災保険の対象外です。
しかし、労災保険の特別加入制度を利用して、任意加入することは可能です。
この場合、家族従業員も「一人親方等」とみなされます。
家族従業員が労働者と認められるケース
事業主が家族従業員以外の労働者を使用している場合は、同居の家族も労働者と認められるケースがあります。
厚生労働省は、この点を以下のように説明しています。
なお、家族従事者は事業主と同居及び生計を一にするものであり、原則として労働基準法上の労働者には該当しません。しかし、事業主が同居の親族以外の労働者を使用し、業務を行う際に、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること、また、就労形態が当該事業場の他の労働者と同様であれば、家族従事者であっても労働者として見なされる場合があります。
引用:厚生労働省「特別加入制度とは何ですか 」
家族従業員が労働者とみなされるには、始業・終業時間や賃金の決定方法などの管理が、ほかの労働者と同様であることが必要です。
一人親方が一般従業員を雇う場合に必要な手続きは?
一人親方の仕事量が増えて事業拡大を目指す場合には、一般従業員の雇用を検討するケースもあるでしょう。労働者を使用する際に行わなければならない手続には、主に以下の3つが挙げられます。
- 各種保険の手続き
- 労務関連の手続き
- 従業員への給料支払いの準備
必要な手続きは多岐に渡るため、一人親方として業務に専念できるよう事前に確認しましょう。ここでは、一人親方が一般従業員を雇う場合に必要な手続きを具体的に解説します。
各種保険の加入手続き
一人親方が一般従業員を雇う際は、各種保険の手続きを行う必要が生じます。各種保険には、以下のようなものがあります。
【雇用保険】
雇用保険は、労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、生活と雇用の安定を図る保険制度です。労働者を31日以上雇用する見込みがあり、週の所定労働時間が20時間以上の場合に加入手続きを行う必要があります。通常はハローワークで手続きを行いますが、一人親方の場合は加入している労働保険事務組合を通して雇用保険の手続きを行うことも可能です。
【労災保険】
労災保険は、業務上および通勤中のケガや病気に対して、被災労働者に必要な保険給付を行う保険制度です。一人親方は法人・個人を問わず、ひとりでも労働者を雇うと労災保険への加入が義務付けられています。労災保険の対象者は正社員だけでなく、アルバイト・パートなどすべての労働者が含まれるため注意が必要です。
また、一人親方自身は「一人親方等」に該当しなくなるため、特別加入している労災保険を「中小事業主」へ変更しなければなりません。
【社会保険】
一般従業員を雇う際に加入義務が生じる社会保険に、健康保険と厚生年金があります。個人事業主の一人親方が常時5人以上の労働者を使用する場合は、健康保険と厚生年金への加入が求められ、国民健康保険や国民年金からの切り替えが必要です。法人の場合は、使用する労働者の人数にかかわりなく社会保険の手続きを行う必要があります。
労務関連の手続き
一人親方が一般従業員を雇う際には、労務関連の手続きも行わなければなりません。労務関連の手続きには、以下のようなものがあります。
【労働条件の提示】
雇い主は使用する労働者に対して、業務内容や給料などの労働条件を明確に提示することが義務付けられています。労働者へ提出する「労働条件通知書」には、以下のような労働条件を記載します。
- 労働契約期間
- 就業場所
- 業務内容
- 始業・終業の時刻
- 残業の有無
- 休憩・休日に関する事項
- 給料の計算方法・支払い時期
- 退職に関する事項 など
【雇用契約の締結】
雇用契約は、従業員の労働に対して雇い主が報酬を支払う契約のことです。法律で義務付けられているわけではありませんが、労働条件の認識の違いなどトラブルを避けるために、書面にしておくことがすすめられています。記載内容は概ね労働条件通知書と同じで、雇用契約書は2部作成して雇い主である一人親方と従業員が署名・捺印します。
【36協定の締結】
36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定で、残業や休日労働の予定がある場合に必要です。正式には「時間外・休日労働に関する協定届」といい、雇い主と従業員の代表者が書面による協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
【就業規則の届出】
労務関連の手続きには、就業規則の届出も含まれます。就業規則は職場でのルールを書面にしたもので、常時10人以上の労働者を使用する場合に労働基準監督署へ届け出る必要があります。記載事項には、労働時間・賃金・退職に関係する絶対的必要記載事項と、任意で記載する相対的必要記載事項があります。
従業員への給料支払いの準備
一人親方が一般従業員を雇う際は、給料支払いの準備も必要です。例えば、給料を支払うことになった日から1ヵ月以内に、税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。
また、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を用意します。申告書をもとに各従業員の所得から控除分をいくら差し引くかを判断でき、年末調整の際に必要になる書類です。
給料を支払う対象が10人未満の場合は、源泉所得税の納期の特例を受けて、事務手続きを減らすとよいでしょう。通常は源泉所得税を毎月納付するところを、特例として年2回(7月と1月)にできます。
ほかにも従業員の口座情報を取得したり、給与計算ソフトを導入したりする必要もあります。
一人親方や家族従業員が任意加入できる労災保険特別加入制度とは
前述のとおり、一人親方と家族従業員は労働基準法の「労働者」に該当しないため、労災保険の対象外です。しかし労災保険特別加入制度を活用して、労災保険に任意加入できます。
これは、労働者としてみなされないものの一般の労働者と同様に業務上のケガや病気のリスクがある者を対象として、一定の要件のもと特別に労災保険加入を任意で認める制度です。
一人親方や家族従事者は「一人親方等」として、特別加入団体を通して労災保険に特別加入できます。「一人親方団体労災センター 」は労働局承認の特別加入団体で、全国規模で一人親方の労災保険特別加入手続きを受け付けています。
なお、一人親方が労働者を年間100日以上使用する場合は、「一人親方等」に含まれなくなるため注意が必要です。その場合は一人親方労災保険を脱退し、労働保険事務組合に事務を委託して中小企業主の労災保険に切り替える必要があります。
まとめ
一人親方が家族従業員を雇う際に注意すべきポイントと、一般従業員を雇う際に必要な手続きをまとめました。
一人親方は、仕事量を増やして事業拡大を目指す場合などに、家族と一緒に現場に入ったりアルバイトを雇ったりするケースがあるでしょう。その際に、同居家族と一般従業員では各種保険の扱いが異なるため注意が必要です。
そこで一人親方が従業員を雇用する際は、この記事を参考にして必要な手続きを確認するようおすすめします。家族従業員と一般従業員を雇う際の注意点を比較して、誰を雇うか決めるとよいでしょう。