個人事業主が加入できる労災保険料と一般的な労災保険の違いが気になる方もいるでしょう。
個人事業主は労働者にあたらないため、特別加入制度を利用して労災保険に加入する必要があります。
本記事では、個人事業主の労災保険料の計算方法やおもな補償内容や給付金額について解説します。
確定申告や仕訳に使う勘定科目や経費計上できる費用を知りたい方もぜひ参考にしてください。
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個人事業主は労災保険に加入できる?
労災保険は、「労働者災害補償保険法」に基づき、労働者が労災事故に遭った場合に給付が補償される公的保険制度です。
労働者でない個人事業主は、一般的な労災保険に加入できませんが、労災保険特別加入制度が利用できます。
労災保険特別加入のなかでも、建設業の一人親方や個人事業主は第2種特別加入に該当します。
令和6年11月1日の法改正により「特定フリーランス事業」として業種を問わずフリーランスも加入対象となりました。
企業などの事業者と委託取引(業務委託)を行うフリーランスが対象で、企業ではなく、消費者から業務委託を受けている方、委託業務が特定フリーランス事業以外の事業や作業の場合は対象外です。
該当する方は、特定フリーランス事業の特別加入団体から手続きを行います。
ただし、建設業の一人親方は、特定フリーランス事業には該当しないため、一人親方特別加入団体を通して加入しましょう。
個人事業主と労働者の労災保険の違い
個人事業主と一般的な労働者の労災保険の違いは、加入方法や給付事由、保険料などにあります。
以下の表に、個人事業主と労働者の労災保険の違いをまとめました。
一般 | 個人事業主 | |
加入方法 | 強制加入(会社が行う) | 任意加入(特別加入団体を通じて行う) |
給付事由 | 業務災害 通勤災害 |
業務災害 通勤災害(フリーランスの場合は災害範囲に一定の制約あり) |
保険料 | 全額会社(事業主)負担 | 全額本人負担 |
労働保険は労災保険と雇用保険の総称
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称で、従業員を1人雇った時点で加入義務が発生します。
原則として、労災保険制度は雇用形態にかかわらずすべての労働者が対象のため、労働者を雇う一人親方は、中小事業主として労災保険に特別加入する手続きを行いましょう。
労災保険料は事業主が全額負担しますが、雇用保険料は事業主と労働者が分担します。
事業主が労災保険の加入手続きをしない場合、最大2年間の保険料の遡及や追徴金が徴収されます。
労働保険の保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間を「保険年度」として計算するため、毎年6月1日~7月10日の期間中に、労働保険料の申告と納付を行わなければなりません。
令和7年度の更新期間は、6月2日(月)~7月10日(木)のため、事業主は期間内にかならず手続きを行いましょう。
個人事業主の労災保険料の目安と計算方法
個人事業主の労災保険料の計算方法は「年間保険料=保険料算定基礎額(給付基礎日額×365日)×保険料率」です。
特別加入制度の労災保険料の保険料率は、事業ごとに異なり、一人親方が含まれる第2種特別加入保険料率は「3/1,000~52/1,000」の範囲です。
たとえば、令和7年度の建設業の一人親方の保険料率は17/1,000、特定フリーランス事業の場合は3/1,000となっています。
給付基礎日額は「3,500円~2万5,000円」の範囲で16段階に分かれ、個人事業主自身が選択し、労働局局長の承認を得て決定します。
給付基礎日額は「前年の収入÷365日」で算出した金額に近い金額を選択することが一般的です。
たとえば、前年の収入が約400万円の一人親方の場合、給付基礎日額は約1万円となり、労災保険料の目安は年間6万2,050円、1ヶ月あたり5,178円となるでしょう。
<年間労災保険料の計算例(前年の収入が400万円の場合)>
- 給付基礎日額:400万÷365日=1万958円≒約1万円
- 年間保険料:1万円×365日×0.017=6万2,050円
- 1月当たり換算:6万2,050円÷12ヶ月=5,178円
労災保険特別加入の保険料以外に必要な費用
個人事業主が労災保険特別加入した場合、労災保険料以外に組合費や入会費、特別加入団体によっては、各種手続き費用がかかります。
費用が発生する手続きは、更新時や給付申請時、脱退時、組合証再発行時などです。
労災保険の補償内容と給付金額
労災保険の給付金額は、補償の種類や給付基礎日額ごとに異なるものの、一般的な労災保険と同様の補償を受けられます。
おもな労災保険の補償内容と給付金額について解説します。
療養給付
療養給付は、給付基礎日額に関係なく、労災で負傷した際に病院での治療費が支給される補償です。
労災病院または労災指定病院等で治療を受ける場合は、治療費が無料で、医師の治癒診断があるまで受給できます。
それ以外の病院等で治療を受ける場合は、治療費を全額立て替えて支払い、後日還付を受けることになります。
労災では健康保険が使えないため、一時的に高額な治療費を負担する点や、費用の還付を受けられる有効期限が費用を支出した日の翌日から2年間と決まっているため、注意しましょう。
休業給付
休業給付は、療養のため労働できない日が4日以上の場合に支給される補償です。
休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額が支給されます。
加えて、休業特別支給金として、休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額が支給されるため、実質80%の補償が受けられます。
傷病年金
傷病年金は、療養開始から1年半経過後も傷病が治癒せず、傷病等級に該当する障害が残っている場合に支給される補償です。
一時金として傷病特別支給金も支給され、傷病の程度によって給付金額が異なります。
傷病の程度 | 支給額 | 特別支給金 |
第1級 | 給付基礎日額313日分 | 114万円 |
第2級 | 給付基礎日額277日分 | 107万円 |
第3級 | 給付基礎日額245日分 | 100万円 |
介護給付
介護給付は、障害年金や傷病年金の受給者で一定の障害を有し、介護を受けている場合に受けられる補償です。
介護費用として支出した額が給付され(上限あり)、介護を受けていて介護費用を支出していない場合や支出額が最低保障額を下回る場合は、一律最低保障額が支給されます。
上限額や最低保障額は、常時介護と随時介護の場合で異なります。
常時介護 | 随時介護 | |
上限額 | 17万7,950円 | 8万8,980円 |
最低保障額 | 8万1,290円 | 4万600円 |
障害給付
障害給付は、障害の程度によって給付額が異なる、傷病治癒後に障害が残った場合に支給される補償です。
支給事由 | 給付内容 | |
年金 | 障害等級が第1級~第7級に該当する場合 | 給付基礎日額の313日分(第1級)~131日分(第7級) |
一時金 | 障害等級が第8級~第14級に該当する場合 | 給付基礎日額の503日分(第8級)~56日分(第14級) |
上記に加えて、第1級342万円~第14級8万円が障害特別支給金として支給されます。
葬祭給付
葬祭料は労災によって死亡した方の葬祭を行う場合に支給される補償です。
給付金額は、31万5,000円+給付基礎日額30日分、または給付基礎日額60日分どちらか高い方となっています。
遺族給付
遺族給付は、労災により死亡した場合に支給される補償です。
支給事由 | 給付内容 | |
年金 | 遺族の人数によって支給額が異なる | 1人→給付基礎日額の153日分または175日分
2人→給付基礎日額の201日分 3人→給付基礎日額の223日分 4人→給付基礎日額の245日分 |
一時金 |
|
1の場合→給付基礎日額の1000日分
2の場合→1から支給済みの合計額を差し引いた額 |
上記に加えて、遺族特別支給金があり、遺族の人数にかかわらず300万円が一時金として支給されます。
個人事業主の労災保険料は経費に計上できる?
労災保険は労働者が対象で、事業者側の負担は法律で義務付けられていないため、個人事業主が支払う自分の労災保険料は経費計上できません。
ただし、自分の労災保険料や国民健康保険料、国民年金保険料は、年間所得から社会保険料控除として控除できます。
確定申告時に、確定申告書第1表の社会保険料控除の欄に合計額を記入し、第2表には社会保険料の内訳を記載して社会保険料控除を受けましょう。
一人親方が経費計上できる費用
一人親方が労災保険で経費にできる費用は、入会金、組合費(会費)、事務手数料です。
経費計上の条件は、雇用している労働者全員分の保険料を支払うことであり、一人親方が支払った自分の保険料は経費計上できないため、注意しましょう。
個人事業主が労災保険で使う勘定科目
労災保険加入時の入会金や組合費、事務手数料の勘定科目は、一般的に「諸会費」「雑費」「支払手数料」などが使われます。
毎年統一した勘定科目に労災保険費用としてまとめて経費計上すると帳簿で確認しやすいでしょう。
従業員を雇う一人親方は、従業員の労災保険料を「法定福利費」「福利厚生費」として経費計上できます。
帳簿には、個人的なお金から経費を支払った場合は「事業主借」、事業用の資金からの場合は「事業主貸」で仕訳しましょう。
「事業主貸」とは、事業主個人で支払うべき費用を事業用の資金から立て替えた際に使う勘定科目です。
一人親方労災保険の加入は一人親方団体労災センターへ
一人親方が労災保険に特別加入するためには、特別加入団体での手続きが必要です。
一人親方団体労災センターでは、初年度の入会金と労災保険料と月額500円の組合費だけで加入できます。
労災保険料と組合費以外の費用負担はなく、同時に5名様以上のお申し込みで入会金が無料になる団体加入割引も。
一人親方で労災保険への特別加入を希望される方は、ぜひご相談ください。
まとめ
個人事業主が任意の労災保険に加入すると、一般的な労災保険と同等の補償が受けられます。
自分の労災保険料は経費計上できませんが、社会保険料控除の対象のため、節税が可能です。
一般的な労災保険との違いは、特別加入団体から手続きを行い、給付基礎日額を自分で決めて保険料が本人の全額負担となることです。
特別加入団体によって費用負担額が異なるため、加入団体の条件を確認して労災保険への加入を検討しましょう。