一人親方労災保険の「労災センター通信」

労働安全衛生規則の改正で熱中症対策が義務化!事業者がやるべき対策を解説

近年、夏の暑さは厳しさを増し、命に関わる危険な暑さとなってきました。
屋外で働く人々にとって、この暑さによる熱中症はもはや他人事ではなく、毎年多くの労働災害を引き起こす重大なリスクです。

このような状況を受け、働く人の安全と健康を守るために労働安全衛生規則の改正で熱中症対策が義務化されました。

しかし、具体的にどんなことをすればよいのか分からない方もいるでしょう。

本記事では、労働安全衛生規則が改正された背景や事業者に求められる熱中症対策などについて解説します。
自社の大切な従業員を熱中症から守るため、ぜひ参考にしてください。
熱中症

2025年6月に安全衛生規則で熱中症対策が義務化された理由

2025年6月に労働安全衛生規則が改正され、職場での熱中症対策が義務化されました。
その背景には、近年の記録的な猛暑によって働く人の熱中症が急増し、命に関わる深刻な問題となっていることがあります。

実際に、熱中症による2024年の「死者」と「休業4日以上」の人の合計は統計開始以来最多の1,257人を記録しました。
2021年の561人、2022年の827人、2023年の1,106人と比較しても、増加の一途をたどっていることが分かります。

さらに、熱中症はほかの労働災害に比べて死亡に至る割合が約5~6倍も高く、きわめて危険です。
しかし、これらの死亡災害のほとんどは、めまいなどの初期症状が見過ごされたり、救護の対応が遅れたりしたことが原因で引き起こされています。

このような事態を防ぎ重症化を確実に防止するため、国はこれまでの注意喚起から一歩踏み込み、事業者に法的な対策義務を課すことを決定したのです。

参照:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について
2024 年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)

労働安全衛生規則で熱中症対策が義務づけられた作業

労働安全衛生規則では、熱中症のリスクが高い特定の条件下での作業が対策義務の対象として定められました。

具体的には、「WBGT値28℃以上または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上または1日に合計4時間を超えて行う作業」が該当します。

WBGT(暑さ指数)とは、熱中症の危険度を客観的に評価するための指標です。
国は、作業の負担に応じて安全とされるWBGT基準値の目安を示しています。

区分 身体作業強度(代謝率レベル)の例 各身体作業強度で作業する場合のWBGT値の目安の値
暑熱順化者のWBGT基準値℃ 暑熱非順化者のWBGT基準値℃
0 安静 安静、楽な座位 33 32
1 低代謝率 ・軽い手作業(書く、タイピング等)
・手や腕、脚の作業 など
30 29
2 中程度代謝率 ・継続的な手や腕の作業(釘打ち、盛土)
・腕や足、胴体の作業 など
28 26
3 高代謝率 ・強度の腕や胴体の作業
・ショベル、ハンマー作業
・重量物の荷車や手押し車を押したり引いたりする作業
26 23
4 極高代謝率 ・速い速度で激しい活動
・シャベルを使ったり握ったりする作業
25 20

WBGT値がどのくらいなのかは、環境省の「熱中症予防情報サイト」で公開しているので参考にするとよいでしょう。
ただし、推計値のため実際の値とは異なる可能性がある点に注意が必要です。

参照:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について

労働安全衛生規則の熱中症予防対策

熱中症予防
労働安全衛生規則では、前述したWBGT値が基準値を超えたら、冷房を稼働させたり負担の少ない作業に切り替えたりして基準値以下になるように対策をしなければいけません。
しかし、対策をしても基準値を超えてしまう場合は、熱中症予防対策を実施することになります。

ここでは、労働安全衛生規則で定められている熱中症予防対策を解説します。

作業環境管理

職場の熱中症を防ぐには、作業場所を涼しく快適に保つ環境管理が重要です。

熱中症の直接的な原因となる暑さを避けるため、危険度を示すWBGT値を測定・評価し、基準値を超えないように管理することが求められます。

具体的な対策として、屋外ではテントなどで日差しを遮り、工場内では熱源との間に遮へい物を設置します。
また、屋内では除湿機やエアコンなどを活用して作業場所の温度や湿度を下げましょう。
屋外では送風機やミストシャワーも有効です。

さらに、作業場所の近くには冷房が効いた休憩場所を確保し、体を冷やすための水分や塩分を補給できる飲み物などを備え付けることも不可欠です。

このようなWBGT値の管理や涼しい休憩場所の整備は、安全な職場を作るための基本となります。

参照:厚生労働省「令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について

作業管理

熱中症予防には、体に過度な負担をかけない作業管理が重要です。

暑い中での長時間の作業はリスクが高いため、WBGT値に応じて休憩時間を確保し、作業時間を短縮します。
WBGT値が基準を大幅に超える場合は、原則として作業を中止する判断も必要です。

新人や休暇明けの作業員には、体を暑さに慣らす「暑熱順化」の期間を計画的に設けましょう。

また、喉が渇く前に水分と塩分を摂るよう指導し、管理者がその状況を確認することも欠かせません。

これらの作業管理を通じて、働く人の安全が守られるのです。

参照:厚生労働省「令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について

健康管理

熱中症を防ぐには、働く人一人ひとりの健康状態に合わせた管理が重要です。

持病やその日の体調によってリスクは大きく変わるため、個別の配慮が重症化防止に繋がります。

持病がある人の作業内容は医師の意見を基に検討し、作業前には睡眠不足などがないか体調を確認しましょう。
さらに、作業中も管理者による見回りや声かけで変化に早く気づくことが大切です。

また、体調の異変をすぐに報告できる体制を整え、全員に周知することも義務付けられています。

参照:厚生労働省「令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について

労働衛生教育

熱中症予防のための労働衛生教育の実施は、法律で定められた事業者の義務です。

危険なサインに気づき適切な行動をとるには、教育を通じて予防意識を高めることが不可欠です。

教育では、熱中症の症状や原因、具体的な予防法、緊急時の応急手当などを学びます。
管理者と一般作業員で内容を分け、雇い入れ時や夏前、日々の朝礼などで繰り返し行うことで知識の定着を図ります。

計画的な教育は、職場全体で熱中症に対応する体制の基礎となります。

参照:厚生労働省「令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について

労働安全衛生規則で事業者に求められる熱中症対策

一人親方の熱中症対策
労働安全衛生規則では、熱中症対策が義務付けられています。
ここでは、事業者がすべき熱中症対策を解説します。

熱中症への基本的な考え方

労働安全衛生規則が示す熱中症対策の基本は、「見つける」「判断する」「対処する」の3ステップを迅速・的確に行うことです。
死亡災害の多くは、初期症状の放置や対応の遅れが原因であるため、この初期対応が重要になります。

具体的には、作業員の様子の変化に早く気づき、医療機関への搬送をためらわず、救急隊の到着まで体を冷やし続ける行動が求められます。

この迅速な対応が重症化を防いで命を守る鍵となるため、事業者はこの考え方に基づき現場に即した対策をしていきましょう。

参照:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
職場における熱中症対策の強化について

体制整備

事業者には、熱中症の疑いを速やかに報告できる体制の整備が義務付けられます。

重症化を防ぐには早期発見が不可欠であり、作業員が自覚症状や同僚の異変をためらうことなく伝えられる仕組み作りが重要です。

具体的には、誰にどのように連絡するかを明確に定め、その連絡先を作業員全員に周知します。
また、報告を待つだけでなく、管理者による見回りや、2人1組で体調を確認し合う「バディ制」の導入など、積極的に異常を把握する努力も求められます。

参照:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
職場における熱中症対策の強化について

熱中症が疑われる症状

熱中症が疑われる症状は、以下のとおりです。

他覚症状 自覚症状
  • ふらつき
  • 生あくび
  • 失神
  • 大量の発汗
  • 痙攣 など
  • めまい
  • 筋肉痛、筋肉の硬直
  • 頭痛
  • 不快感
  • 吐き気
  • 倦怠感
  • 高体温 など

このような症状が見られたら、すぐに報告しましょう。

手順作成

熱中症が疑われる人がいた際に現場が混乱せず的確に対応できるよう、具体的な手順の作成が事業者には義務付けられています。

緊急時に何をすべきかを事前に決めておくことで、迅速な判断と行動が可能になり、救命率を高めるでしょう。

作成する手順には、以下の内容を盛り込みます。

  • 緊急連絡網
  • 身体冷却の具体的な方法
  • 医療機関への搬送の判断基準

厚生労働省のフローチャートを参考にしたり、判断に迷った際の「#7119」の活用を記載したりすることも有効です。

参照:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
職場における熱中症対策の強化について

関係者への周知

事業者に求められる対策として、定めた報告体制と対応手順を現場で働くすべての人に周知することが挙げられます。

優れたルールも、知られていなければ緊急時に機能しないため、周知の徹底は不可欠です。

方法としては、朝礼での説明、休憩所への掲示、メールでの通知などを組み合わせることが効果的です。
特に緊急連絡先や対応フローチャートは、誰もがいつでも確認できるよう、常に目につく場所に掲示しておきましょう。

参照:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
職場における熱中症対策の強化について

労働安全衛生規則の熱中症対策を実施しなかったときの罰則

労働安全衛生規則で義務づけられた報告体制の整備、対応手順の作成、周知といった必要とされる措置を講じなかった場合、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されるおそれがあります。

罰則の有無に関わらず、従業員の安全と健康を守るために熱中症対策を実施していきましょう。

まとめ

2025年6月の改正労働安全衛生規則により、職場での熱中症対策が義務づけられました。
記録的な猛暑を背景に労働災害が増加する中、今回の改正は働く人の命を守るために重要なものです。

事業者はWBGT値28℃以上の暑熱環境下で、体制の整備、手順の作成、関係者への周知を行う必要があります。

具体的には、体調の異変をすぐに報告できる連絡体制を整え、緊急時にどう動くかを明確にした対応手順書を作成し、その内容を現場の全員に周知徹底することが求められます。
自社の作業環境を確認し、作業管理、健康管理、教育などの対策を総合的に進めることが不可欠です。

本記事で解説した内容を参考に、今日から具体的な準備を始めましょう。

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