消費税の申告って、ややこしくてよく分からないと悩んでいる一人親方もいるでしょう。
特に仕入れや経費の管理に不慣れな場合、毎年の消費税申告は大きな負担になります。
しかし、簡易課税制度を利用すれば事務作業の負担が少なくなり、場合によっては納税額を抑えられるかもしれません。
本記事では、簡易課税制度の仕組みや利用条件、メリット・デメリット、注意点などについて解説します。
消費税の簡易課税制度について知りたい一人親方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
簡易課税制度とは?
簡易課税制度は、消費税の計算を簡略化する制度です。
通常の計算では売上で預かった消費税から仕入れや経費で支払った消費税を差し引きますが、この制度では、売上消費税に業種別の「みなし仕入率」を掛けるだけで、納める消費税額を算出できます。
これにより、仕入れや経費で支払った消費税を個別に集計する手間が省け、事務負担が大幅に軽減されます。
また、実際の経費が少ない事業者は納税額を抑えられる可能性があり、節税効果も期待できるのです。
参照:国税庁「No.6505 簡易課税制度」
簡易課税制度の利用条件
簡易課税制度を利用するには、2つの条件を満たす必要があります。
1つは、基準期間(前々年)の課税売上高が5,000万円以下であることです。
たとえば、2025年に適用したい場合、2023年の売上が5,000万円を超えていないことが条件となります。
もう1つは、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署へ提出することです。
この届け出は、制度を利用したい課税期間が始まる前日までに行わなければなりません。
この2つの条件をクリアすれば、簡易課税制度の利用が可能になります。
簡易課税制度の事業者区分
簡易課税制度で納税額を計算する際に使われる「みなし仕入率」は、事業の種類よって異なります。
事業を6つの区分(第1種事業〜第6種事業)に分類し、それぞれにみなし仕入率が設定されています。
事業者区分は以下のとおりです。
事業区分 | みなし仕入率 | 事業 |
第1種事業 | 90% |
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第2種事業 | 80% |
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第3種事業 | 70% |
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第4種事業 | 60% |
第6種事業以外の事業(飲食店業など) |
第5種事業 | 50% |
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第6種事業 | 40% |
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一人親方が簡易課税制度を選ぶ際には、どの事業区分になるのか見ていきましょう。
参照:国税庁「No.6509 簡易課税制度の事業区分」
一人親方はどの事業区分になる?
建設業の一人親方でも、働き方によって簡易課税制度の事業区分とみなし仕入率が異なります。
元請けから資材を支給され手間賃を受け取る働き方(施工のみ担当)の場合は第4種事業に分類され、みなし仕入率は60%です。
一方、自身で資材を仕入れて工事を一式で請け負う場合や、元請けとして工事全体を下請けに施工させる場合は第3種事業となり、みなし仕入率は70%が適用されます。
一人親方の多くは材料を提供されて施工のみを担当するため、一般的には第4種事業として扱われるケースが多いようです。
参照:国税庁「No.6509 簡易課税制度の事業区分」
事業が複数ある一人親方の場合
複数の業種で収入を得ている一人親方は、原則として事業ごとに売上を分け、それぞれのみなし仕入率で税額を計算する必要があります。
しかし、この計算は手間がかかるため、簡易的な特例が用意されています。
特定の条件下では、売上が最も多い事業の仕入率を全体の売上にまとめて適用できるのです。
たとえば、売上の大半が第4種事業であれば、その仕入率(60%)を全体の売上に対して用いることが可能です。
事業が複数ある場合は、主たる業種を見極め、適切に申告するようにしましょう
一人親方が消費税の簡易課税制度を利用するメリット
一人親方が簡易課税制度を利用するメリットは2つあります。
どのようなメリットが得られるのかを解説します。
事務の負担が軽減される
簡易課税制度のメリットの1つは、消費税の計算にかかる作業を大幅に減らせる点です。
通常の方法(原則課税)では、仕入れや経費ごとに消費税を記録し、税率ごとに分けて管理しなければなりません。
取引によっては「課税対象かどうか」の判断も必要で、非常に煩雑です。
一方、簡易課税制度では、売上に一定の割合(みなし仕入率)を掛けるだけで、納める消費税額を自動的に算出できます。
そのため、請求書や領収書を細かく仕分けたり分類したりする必要がありません。
売上さえ把握していれば納める消費税額が出せるため、帳簿の作成や税額計算の時間と労力を大きく削減できます。
経理に不慣れな一人親方でも安心して申告ができるようになることが、この制度のメリットといえるでしょう。
節税できる可能性がある
簡易課税制度を利用することで、納税額を減らせる可能性があります。
簡易課税制度では「実際に使った経費」ではなく、「売上に対して国が決めた割合(みなし仕入率)」をもとに納める消費税額を計算します。
たとえば、みなし仕入率が60%の業種で実際の経費が40%ならば差額の分だけ納める消費税が少なくなり、結果として節税になるのです。
簡易課税制度では、帳簿上の実績ではなく定められた計算式にしたがって控除額を出すため、経費が少ない一人親方にとっては有利になるケースが多いでしょう。
一人親方が消費税の簡易課税制度を利用するデメリット
簡易課税制度は節税できると解説しましたが、納税額が増えるケースがあるため注意が必要です。
特に、大きな設備を購入したり材料を多く仕入れたりする年は、実際に納める消費税が多くなります。
原則課税なら、こうした支出にかかった消費税をきちんと差し引くことができるため、納税額は抑えられます。
しかし簡易課税制度では、経費の実額に関係なく売上に一定の割合(みなし仕入率)を掛けて仕入税額を計算するため、支出が多い年ほど実態とずれが生じやすくなるのです。
さらに、簡易課税を選んでいる場合は、消費税の還付を受けることもできません。
つまり、大きな出費があっても税金が戻ってくることはないのです。
このように設備投資や材料費が多く発生する時期には、かえって不利になる可能性があるため、制度の選択は慎重に行った方がよいでしょう。
一人親方が消費税の簡易課税制度を利用するときの注意点
一人親方が簡易課税制度を利用する際は、いくつか注意点があります。
どのような点に注意すべきか見ていきましょう。
「消費税簡易課税制度選択届出書」は期限までに提出する
簡易課税制度を利用するには、制度を利用したい課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
たとえば、2026年に簡易課税制度を利用したい場合は、2025年12月31日までに書類を提出しなければなりません。
この期限を1日でも過ぎると翌年の適用はできず、原則課税での申告が必要になります。
また、制度の対象は課税事業者に限られており、免税事業者の段階では届け出をしてもすぐには使えません。
開業初年度から使いたい場合は、その年のうちに提出すれば問題ありません。
書類は税務署へ持参するほか、郵送やe-Taxによる提出も可能です。
電子申請にはマイナンバーカードや識別番号の準備が必要な点にも注意しましょう。
2年間は一般課税に変更できない
簡易課税制度を一度選ぶと、原則として2年間は変更できないというルールがあります。
つまり、たとえ次の年に高額な設備投資を予定していて原則課税にした方が有利だとわかっていても戻すことはできません。
そのため、制度を選ぶ際は今だけでなく2〜3年先までの事業計画をふまえて判断することが重要です。
どうしても変更したい場合は、2年経過後に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を税務署に提出する必要があります。
短期的な利益に目を向けるのではなく、事業の成長や支出予定を見越して、どの課税方式が自分に合っているのかをじっくり検討することが大切です。
売上が5,000万円を超えた場合は適用されない
一人親方として事業が軌道に乗り、基準期間(2年前)の売上が5,000万円を超えた場合、その年は簡易課税制度を使うことができません。
このときは、届出書を出していても自動的に原則課税に切り替わります。
ただし、将来また売上が5,000万円以下に戻った場合には、消費税簡易課税制度選択不適用届書を出していなければ、再び簡易課税制度が自動的に適用されます。
事業規模の拡大や縮小によって制度の扱いが変わるため、自身の売上推移を常に把握し、対応を忘れないようにしましょう。
インボイス制度の2割特例の方がお得になる可能性がある
インボイス制度の導入で免税事業者から課税事業者になった一人親方には「2割特例」という優遇措置が用意されています。
2割特例では、納税額が売上にかかる消費税の2割だけで済むという、大きなメリットがあります。
みなし仕入率に換算すると80%相当となるため、第3〜第6種事業の人にとっては簡易課税制度よりお得といえるでしょう。
ただし、この特例は2026年9月30日までの期間限定です。
また、基準期間で売上が1,000万円を超えると対象外となります。
制度選択にあたっては、期間や売上条件をしっかり確認し、自分にとって最も負担の少ない方法を選ぶことがポイントです。
参照:国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
まとめ
簡易課税制度とは、消費税の計算を簡略化できる制度です。
本来は仕入れや経費にかかった消費税を一つひとつ集計する必要がありますが、簡易課税制度は売上に対してみなし仕入率を掛けるだけで納税額を計算できます。
そのため、事務作業の負担が軽くなるのです。
また、経費が少ない場合は実際より多くの控除が受けられ、納税額が減る可能性があります。
その一方で、設備投資や材料の仕入れが多い年には実態より税額が多くなったり、還付が受けられなかったりするといったデメリットもあるため注意が必要です。
簡易課税制度を使うには、課税売上高5,000万円以下であることや所定の期限までに届出書を提出することなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
制度の仕組みを正しく理解し、将来の事業計画や支出の見通しもふまえて、自分に最適な課税方式を選びましょう。