個人事業主である一人親方は労災保険への加入費用が経費に計上できるのか気になる人もいるでしょう。
個人事業主である一人親方は、労災保険料を経費として計上することはできません。
ただし、確定申告で「社会保険料控除」として申告すれば節税につなげられるほか、入会金や組合費などの一部費用は経費計上が可能です。
そこで本記事では、個人事業主が労災保険加入にあたって経費になる費用について解説します。
初めて確定申告する人や節税対策として控除を受けたい人はぜひ参考にしてください。

Contents
個人事業主は加入した労災保険料を経費計上できる?
個人事業主は労災保険料を経費に計上することはできません。
事業者が負担する費用として労災保険は法律で義務付けられておらず、個人の出費とみなされるためです。
ただし、従業員を雇っている場合は扱いが異なります。
従業員のために支払う労災保険料は、事業に必要な支出として経費に計上できます。
なお、一人親方本人が支払う労災保険料は経費にできませんが、確定申告で「社会保険料控除」として申告可能です。
社会保険料控除とは、支払った保険料を所得から差し引くことで税金の負担を軽減できる制度です。
控除を受けるためにも、納付証明書や領収書を保管し、確定申告書に漏れなく記載しておきましょう。
個人事業主が労災保険料を仕訳する方法
労災保険料を支払ったとき、事業用の資金から支払ったか、個人の資金から支払ったかによって仕訳の方法が異なります。
一人親方の場合、労災保険に加入する際は「特別加入制度」を利用することになります。
特別加入とは、通常は労働者を対象とする労災保険に、労働者を雇わない個人事業主(一人親方)も任意で加入できる制度のことです。
ここからは、支払い方法ごとの仕訳と勘定科目について詳しく見ていきましょう。
事業用の資金で支払った場合は事業主貸
個人事業主が事業用資金から労災保険料を支払った場合は「事業主貸」を使って計上します。
事業主貸とは、事業の収入から個人的な支出を行った際、事業資金と分けるために使用する勘定科目です。
たとえば、事業用口座から労災保険料3万円を支払った場合の仕訳例は次の通りです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 事業主貸 | 30,000円 | 普通預金 | 30,000円 | 労災保険料 |
この場合、労災保険料は経費にならない支出のため、事業主貸で処理します。
事業用口座ではなく個人のお金で支払った場合、仕訳は不要です。
法人の代表や従業員を雇用している場合は法定福利費
従業員を雇っている場合は、支払う労災保険料を「法定福利費」で計上します。
法定福利費とは、事業主負担として法律で義務付けられている労災保険や雇用保険、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料を処理する勘定科目です。
事業用口座から従業員分の労災保険料3万円を支払った場合の仕訳例は次の通りです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 30,000円 | 普通預金 | 30,000円 | 従業員分労災保険料 |
従業員を雇用している個人事業主や法人代表者は、このように「法定福利費」の勘定科目で仕訳しましょう。
事業主と従業員負担分を明確に区別したい場合は立替金
従業員を雇用している場合、労災保険料を事業主と従業員で折半して負担するケースがあります。
このとき、従業員負担分を一時的に事業主が立て替える場合は、「立替金」の勘定科目を使って仕訳します。
立替金とは、従業員が支払うべき費用を会社が一時的に代わりに支払った場合に使う勘定科目です。
労災保険料は、前年の収入額をもとに概算で決められます。
そのため、あらかじめ概算保険料を納付し、給与を支給する際に従業員負担分を差し引いて精算するのが一般的です。
たとえば、従業員分の労災保険料を事業用口座から2万円、従業員が1万円負担した場合の仕訳例は次の通りです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 20,000円 | 普通預金 | 30,000円 | 従業員分労災保険料 |
| 立替金 | 10,000円 |
立替金を回収した際には、以下のイメージで仕訳処理をしましょう。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 現金 | 10,000円 | 立替金 | 10,000円 | 従業員分労災保険料 |
個人事業主が労災保険関連で経費計上できる費用と勘定科目

個人事業主のなかでも、従業員を雇用していない一人親方の場合、労災保険料そのものは経費にできません。
ただし、労災保険への加入時に発生する入会金・組合費・事務手数料などの費用は、事業に必要な支出として経費に計上できます。
これらの費用は、「諸会費」「支払手数料」「雑費」などの勘定科目で処理するのが一般的です。
使用する勘定科目に明確な決まりはありませんが、毎年同じ科目を使って統一することが大切です。
入会金
入会金は、一人親方団体へ入会時に支払う費用です。
たとえば、一人親方団体に入会金3000円を事業用口座から支払った場合の仕訳例は次の通りです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 諸会費 | 3,000円 | 普通預金 | 3,000円 | 入会金 |
入会金は加入団体によって金額が異なるため、できるだけ安い労災団体を選ぶとコストを削減できるでしょう。
組合費
組合費は、一人親方団体の運営費として毎月または毎年支払う費用で、団体によっては会費とも呼ばれます。
一人親方団体に組合費500円を事業用口座から支払った場合の仕訳例は次の通りです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 諸会費 | 500円 | 普通預金 | 500円 | 労災組合会費 |
入会金同様、組合費も一人親方労災保険団体によって異なるため、価格を比較してできるだけ安い労災団体を選ぶとよいでしょう。
事務手数料
事務手数料は、加入手続きや更新手数料、退会手数料などで、労災発生時の事務手数料も経費として計上できます。
一人親方団体に事務手数料3000円を事業用口座から支払った場合の仕訳例は次の通りです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 諸会費 | 3,000円 | 普通預金 | 3,000円 | 事務手数料 |
事務手数料は年間6600円や労災保険料の9.5%など加入団体によって異なります。
中には、事務手数料が一切かからない加入団体もあるため、比較する際のポイントにするとよいでしょう。
個人事業主が労災保険加入費用を経費にする場合の注意点
労災保険加入費用を経費にする場合の注意点について解説します。
支払いの証拠となる書類を保管しておく
入会金や組合費を「諸会費」として経費にする場合、必ず領収書を保管して支払ったことを示す証拠書類を残しておきましょう。
取引内容が明細書で判断できない場合は、明細書のコピーに補記するなどの対策が必要です。
確定申告で領収書を提出する必要はないものの、税務調査では帳簿の記載内容の正確さと領収書を保管して適切に管理されているかを厳しくチェックされます。
万が一の事態に備えるため、領収書の保管を習慣づけることが大切です。
勘定科目は年度毎で変えずに統一する
勘定科目は年度毎で変えずに、毎年同一のものを使うことが大切です。
たとえば、2024年度は事務手数料を「支払手数料」として処理し、2025年度の事務手数料を「雑費」として処理すると、会計処理に一貫性がなくなるため、避けましょう。
仕訳に使用する勘定科目に縛りはなく、諸会費・支払手数料・雑費などが一般的に使われます。
自分が管理しやすい勘定科目を毎年統一して使用してください。
入会金や組合費など経費にしたものは控除に合算できない
一人親方の労災保険料を確定申告時に所得控除する際は、入会金や組合費など経費に計上したものは合算できないため注意が必要です。
加入にかかった費用として一括りにせず、一人親方団体からの請求書を確認し、適切な金額と項目毎に該当する勘定科目に仕訳して管理しましょう。
勘定科目を誤ると節税できない場合がある
「法定福利費」として経費計上ができるケースで誤って「事業主貸」勘定を使用すると経費計上できない場合があります。
「法定福利費」として経費計上できるケースは、従業員を雇用している場合や配偶者、子などの家族従事者に対して労災保険料を支払う場合、法人化していて自身が代表取締役である場合です。
正しく計上しないと節税できなくなるため、注意してください。
個人事業主の労災保険の経費に関するよくある質問

個人事業主の労災保険の経費に関するよくある質問についてまとめました。
一人親方労災保険の勘定科目は個人事業主と法人で異なる?
一人親方労災保険料の支払い方法によって、勘定科目が個人事業主と法人で異なります。
| 労災保険料 | 勘定科目 |
|---|---|
| 個人 | 事業主貸:事業の収入から個人的な支出を行った際、事業資金と分けるために使用 |
| 法人 | 法定福利費:代表取締役で法人化した一人親方や雇用した従業員の労災保険料を支払う場合に使用 立替金:従業員が支払うべき費用を会社が一時的に代わりに支払った場合に使用 |
団体加入組合費や入会金、事務手数料などの勘定科目は個人、法人ともに諸会費または支払手数料、雑費などを使います。
労災保険の加入費用を個人口座から支払った場合の仕訳方法は?
労災保険料を個人の資金で支払った場合は個人の出費として仕訳する必要はありません。
ただし、事業用の資金から経費を支払った場合は「事業主借」という勘定科目を使って仕訳します。
労災保険の加入費用として経費となる項目は、一人親方が労災保険に加入する際に必要な入会金や組合費などです。
個人事業主が確定申告で労災保険料の控除を受けるには?
個人事業主が確定申告で労災保険料の控除を受ける方法は次の通りです。
- 支払った労災保険料の請求書を確認して保険料額を確認する
- 確定申告書第一表「所得から差し引かれる金額」の「⑬社会保険料控除」欄に合計金額を記入する
- 確定申告書第二表の社会保険料控除の欄に社会保険料の内訳を記載する
ほかの社会保険料も合算する必要があり、確定申告書作成コーナーや会計ソフトを利用すると個別に入力するページが表示されます。
まとめ
個人事業主が労災保険の加入費用を経費にできるのは、労災保険団体の入会金や組合費、事務手数料などです。
経費精算する際は、諸会費や支払手数料、雑費など
