一人親方など自営業者として働く際に「万が一のケガや事故に備えて保険に入りたい」と考える方は多いでしょう。
原則として自営業者は労災保険に加入できませんが、一定の事業を行う方は「特別加入」の対象となります。
本記事では、労災保険の特別加入の特徴、保険料や給付金額、手続き方法までを分かりやすく解説します。
労災事故への備えをして安心して働き続けたい方は、ぜひ参考にしてください。

Contents
自営業者は労災保険に加入できる?
自営業者は、原則として労災保険の対象外となります。
労災保険とは、仕事や通勤中に起きたケガや病気や死亡などに対して、労働者やその家族を保護するための公的保険制度のことです。
労働基準法第9条で「労働者」とは「事業や事務所に使用され、賃金を支払われる者」と定義されています。
独立して業務を請け負う自営業者は「使用される側」ではなく「使用する側」にあたり、労働者としての扱いを受けません。
ただし、建設業など一定の業種で事業を行う方は「特別加入制度」を利用して労災保険に加入できます。
特別加入制度を活用すれば、万が一の災害に備えた補償を受けられるようになるでしょう。
労災保険の特別加入制度とは?

労災保険の特別加入制度とは、実際の業務内容や労災の発生状況を考慮して、労災保険の対象とすることが適当であると認められた人が利用できる制度で加入は任意ですが、個人で直接申し込むことはできず、特別加入団体や労働保険事務組合を通して手続きを行う必要があります。
特別加入制度は、一般の労働者に適用される労災保険とは異なり、保険料の算定方法や費用負担の仕組みが異なります。
また、特別加入には「一人親方等」「中小企業主等」「特定作業従事者」「海外派遣者」の区分があり、自身の業種や立場に合わせて加入できる点が特徴です。
労災保険の特別加入ができる自営業者は?
労災保険に特別加入できる自営業者は、前述でご紹介した4つの区分のうち「一人親方等」に該当するケースが多いでしょう。
一人親方等の対象となるのは、業務中に負傷する危険性が高いと考えられる次の業種が該当します。
- 自動車を使う旅客・貨物運送業、原付バイクや自転車を使う貨物運送業
- 大工・左官・とび職などの建設業
- 漁船を使う漁業
- 林業
- 医薬品の配置販売業
- 廃棄物収集・運搬・解体などを行うリサイクル業
- 船員法に定める船員
上記のような業種で事業を行う自営業者は、特別加入制度を通じて労災保険に加入できる可能性があります。
自営業者が労災保険に特別加入するメリット
本章では、自営業者が労災保険に特別加入することで得られるメリットを2つご紹介します。
メリットを理解することで、万が一の労働災害に備え、安心して事業を続けられるようになるでしょう。
労働災害時に手厚い補償を受けられる
自営業者が労災保険に特別加入する最大のメリットは、労働災害時に一般労働者と同様の手厚い補償が受けられることです。
業務中や通勤中にケガや病気をした場合、治療費は全額保険で負担されます。
さらに、業務に支障が出て休業した場合の休業補償や、後遺障害が残った場合の障害補償、万が一死亡した場合には遺族に対する給付も受けられます。
労災保険に加入し、労働災害に備えておくことで、安心して仕事に取り組めるようになるでしょう。
建設現場の入場制限がなくなる
建設業などに従事する一人親方の場合、労災保険への特別加入が現場に入るための必須条件となるケースが増えています。
この理由は、建設現場では業務中のケガや事故のリスクが高いためです。
特別加入している場合は、加入証明書を提示することで現場への入場制限が解除され、これまで制約があった業務にも参加できるようになります。
安心して働くため、そして幅広い建設業務に携わるためにも、労災保険には加入しておいたほうがよいでしょう。
自営業者が労災保険に特別加入する際の注意点
労災保険の特別加入にはメリットがある一方、注意すべき点もあります。
特別加入を検討している自営業者は、本章でご紹介する2つの注意点も押さえておきましょう。
経費として計上できない
自営業者が労災保険に特別加入する場合、その保険料は経費として計上できません。
労災保険はもともと労働者を対象とした制度であり、自営業者の加入は特例としてのみ認められているためです。
ただし、特別加入の保険料は確定申告時の所得控除の対象となるため、節税効果を活用して負担を抑えながら加入できるでしょう。
健康診断が必要となるケースもある
自営業者が労災保険に特別加入する場合、特定の業務に一定期間以上携わっていると、加入申請時に健康診断を受ける必要があります。
必要となる健康診断は業務ごとに異なり、下表の通りです。
| 業務内容 | 業務に従事した通算期間 | 必要となる健康診断 |
|---|---|---|
| 粉塵作業を行う業務 | 3年以上 | 塵肺健康診断 |
| 振動工具を使用する業務 | 1年以上 | 振動障害健康診断 |
| 鉛業務 | 6か月以上 | 鉛中毒健康診断 |
| 有機溶剤業務 | – | 有機溶剤中毒健康診断 |
健康診断の費用は国が負担しますが、受診にかかる交通費は加入者の負担となります。
また、健康診断の結果によっては、療養に専念することや特定業務からの転換が求められる場合があります。
加入前の疾病が原因で発症した場合は、保険給付を受けられないこともあるため注意しておきましょう。
自営業者の労災保険の特別加入にかかる保険料と給付金額
続いては、自営業者の労災保険の特別加入にかかる保険料や計算方法と給付金額についてご紹介します。
保険料の計算方法や費用が労働者の労災保険とは異なる点に注意しておきましょう。
保険料
自営業者が労災保険に特別加入をする場合、年間の保険料は「給付基礎日額×365×保険料率」で計算されます。
給付基礎日額は3,500円から2万5,000円までの16段階で設定されており、一人親方や自営業者は自分の所得や労働実態に合わせて自己申告により選択します。
高い日額を選ぶほど補償額は増えますが、そのぶん保険料も増えるため、実際の所得に合わせて無理のない金額を選ぶことが大切です。
保険料率は事業内容によって異なり、令和6年度の一部事業の料率は下表の通りです。
| 事業 | 保険料率 |
|---|---|
| 自動車を使う旅客・貨物運送業 原付バイクや自転車を使う貨物運送業 |
11/1000 |
| 建設業 | 17/1000 |
| 漁船を使う漁業 | 45/1000 |
| 林業 | 52/1000 |
| 医薬品の配置販売業 | 6/1000 |
| 廃棄物回収、運搬、選別、解体などリサイクル事業 | 14/1000 |
| 船員法に基づく船員の業務 | 48/1000 |
また、保険料のほかに、組合費や入会費、特別加入団体によっては各種手続きにかかる費用が発生することがあるため、加入時にはあわせて確認しておくと安心でしょう。
給付金額
自営業者が労災保険に特別加入した場合、給付金額は補償の種類や給付基礎日額をもとに算定されます。
また、業務災害や通勤災害により被災した場合には、所定の保険給付に加えて、特別支給金が支給されることもあります。
例えば「休業補償給付」の場合は次の通りです。
| 給付の種類 | 支給事由 | 給付内容 | 特別支給金 |
|---|---|---|---|
| 休業補償給付 | 業務災害や通勤災害で4日以上働けない状態になった場合 | 4日目以降の休業1日につき、給付基礎日額の60%相当を支給 | 4日目以降の休業1日につき、給付基礎日額の20%相当を支給 |
給付の種類によって条件や金額が異なるため、詳しくは加入を予定している特別加入団体に確認してください。
自営業者が労災保険に特別加入する際の手続き方法

自営業者が労災保険に特別加入する際の手続き方法は、2つに大別されます。
1つ目は、新たに特別加入団体を設立して加入申請を行う方法です。
提出書類は「特別加入申請書」で、労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出します。
2つ目は、既存の特別加入団体を通じて加入する方法です。
提出書類は「特別加入に関する変更届」であり、労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に届け出ます。
どちらの場合も、加入希望者は必要書類を正確に提出することが大切です。
事前に手続きの流れを確認して、スムーズに申請できるように準備しておきましょう。
「一人親方団体労災センター」は労働局が承認する特別加入団体の一つであり、自営業者が安心して労災保険に特別加入できるよう各種サポートを提供しています。
労災保険の申請や相談については、一人親方団体労災センターまでお気軽にお問い合わせください。
自営業者の労災保険に関するよくある質問
本章では、自営業者の労災保険に関するよくある質問と、その回答を2つご紹介します。
労災保険の代わりとなる保険はある?
自営業者が労災保険に特別加入しない場合は、代替策として民間の傷害保険や財団法人が運営する共済制度などの利用を検討してみましょう。
ただし、補償の範囲や給付金額、保険料の条件などは保険会社や財団法人によって大きく異なります。
加入前に補償内容をよく確認し、自身の業務内容やリスクに合った保険を選ぶことが大切です。
特別加入が難しい場合でも、民間の傷害保険を上手に活用すれば、万一のケガや事故に備えて一定の安心を確保できるでしょう。
労災時のケガは国民健康保険で治療できる?
労災によるケガをした場合でも、国民健康保険を利用して治療を受けられます。
ただし、治療費の3割は自己負担となるため、費用面には注意が必要です。
一方、労災保険に加入している場合は、治療費が全額補償されます。
「急な出費をできるだけ避けたい」「万一のケガに備えたい」という方は、労災保険の特別加入を検討しておくと安心でしょう。
まとめ
一人親方などの自営業者は、原則として労災保険には加入できません。
ただし、一定の業種に携わっている方は、労災保険の「特別加入制度」を利用できます。
制度のメリットと注意点を正しく理解して自分に合った給付基礎日額を自己申告すれば、安心して仕事を続けられるでしょう。
労災保険の手続きや加入に関するご相談は、お気軽に「一人親方団体労災センター」へお問い合わせください。
