建設現場などで働く一人親方は、日々さまざまな危険と向き合っています。
しかし「これまで大きな事故はなかった」「保険料がもったいない」などの理由から、労災保険に特別加入していない方も少なくありません。
労災保険に未加入のまま事故が起きた場合、治療費や休業中の生活費はすべて自己負担となり、想像以上の経済的・精神的ダメージを受けるおそれがあります。
本記事では、労災保険に未加入の一人親方が事故に遭ったときのリスクに加え、特別加入制度の仕組みやメリットをわかりやすくご紹介します。
労災保険への加入を迷っている一人親方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
一人親方が労災保険に未加入のまま事故に遭うとどうなる?
労災保険に加入していない一人親方は、仕事中に事故が起きると多くの負担を自分で背負うことになります。
本章では、労災保険に未加入の一人親方が事故に遭ったときのリスクを5つ解説します。
治療費が自己負担になる
一人親方が業務中にけがをした場合、労災保険に加入していないと医療費を全額負担しなければならない可能性があります。
労災事故は本来、健康保険の対象外であるため、原則として公的保険を利用することができません。
もし健康保険で治療を受けてしまうと、後で診療報酬を返還しなければならなくなるケースもあります。
特に、骨折や入院が必要な重傷では高額な費用が発生し、経済的に大きな負担となるでしょう。
労災保険に加入していれば、治療費は原則として自己負担なしで受けられるため、安心して治療に専念できます。
予測できない事故に備えるためにも、労災保険への加入は重要です。
働けない期間の金銭的負担が大きくなる
労災事故で働けなくなった場合、労災保険に加入していれば休業補償を受け取れますが、未加入の一人親方にはその補償がありません。
そのため、収入が途絶えるのに治療費や生活費の支出は続くため、家計への負担が大きくなるのです。
また、長期療養や後遺障害発生の場合、これまでと同じ仕事ができなくなり、将来の収入が大きく落ち込む可能性もあります。
特に、一家の生活を支える立場の場合、この影響は深刻でしょう。
このような事態に備えるためにも、労災保険への加入はとても重要なことです。
元請会社の労災保険は適用されない
一人親方は個人事業主であり、元請会社に雇用されている労働者ではないため、元請会社の労災保険の対象外となります。
そのため、現場で事故に遭っても、原則として元請会社の労災保険は利用できません。
例外的に、業務指示の受け方や勤務実態が元請会社の従業員と同等と認められれば、労働者として扱われる可能性はありますが、判断は難しく、基本的には適用されないと考えたほうがよいでしょう。
補償を確保するためには、自身で労災保険に加入しておくことが重要です。
元請会社から損害賠償を請求される可能性がある
事故の内容によっては、一人親方が元請会社に損害を与えたと判断されて損害賠償を求められることがあります。
特に、第三者への被害や設備破損が伴うケースでは、修理費や補償費が高額に及ぶことも考えられます。
さらに、元請会社が一時的に治療費などを立て替えた場合には返却を後日請求されることがあるかもしれません。
こうしたトラブルは信頼関係を損ね、その後の取引停止につながるおそれもあるため、事前の備えをしておくと安心です。
仕事を受注できない可能性がある
近年、多くの元請会社は安全管理体制の強化を進め、労災保険に加入していない一人親方は現場への入場を認められないケースが増えています。
新規入場時に労災保険加入の確認が行われ、労災保険の加入証明書の提示を求められることも一般的です。
そのため、労災保険に未加入のままだと仕事を受けられない可能性が高まり、事業継続に大きな影響を及ぼしかねません。
安定した受注や信頼獲得のためにも、労災保険への加入は必要不可欠といえるでしょう。
一人親方は労災保険に特別加入できる
個人事業主は原則として労災保険の対象外ですが、建設業など危険と隣り合わせの仕事を行う一人親方には、災害時の補償が必要であることから特別加入制度が設けられています。
特別加入とは、本来は労災保険に入れない立場の方でも一定の条件を満たせば加入できる仕組みで、通常の労働者と同じように次のような補償を受けられる制度です。
- 治療費の全額補償
- 休業補償給付(最大80%)
- 障害補償
- 遺族補償
- 介護補償 など
補償内容は労働者とほぼ同じですが、加入の申し込みは本人が行う必要があり、保険料などの費用はすべて自己負担です。
特別加入は義務ではありませんが、事故による損失や生活への影響を考えると、加入しておいたほうが安心して働けるでしょう。
関連記事:自営業者は労災保険に加入できる?特別加入の特徴や手続き方法を解説
一人親方が労災保険に加入するメリット
労災保険への加入は、一人親方が安心して仕事を続けるための重要な備えといえます。
本章では、一人親方が労災保険に加入するメリットを2つ解説しますので、それぞれの特徴をしっかり理解しておきましょう。
万が一のときに補償が受けられる
一人親方が労災保険に加入するメリットは、事故に遭った際にさまざまな補償を受けられる点です。
けがをした場合に治療費が全額補償されるため、高額な医療費に悩まされる心配がありません。
また、働けなくなった際には休業補償が支給され、収入が途絶えるリスクを減らせます。
さらに、後遺障害が出た場合の障害補償や、死亡時の遺族補償も受けられるため、万が一のときに自分と家族を支える大きな安心材料となります。
仕事が受けやすくなる
労災保険に加入している一人親方は、仕事を受けやすくなるというメリットがあります。
近年の建設現場では、安全管理のために加入証明の提示を求められることが一般的で、保険加入者は元請会社からの信頼も得やすくなり、発注側にとってもリスク管理がしやすいため、双方にとってメリットがあるといえるでしょう。
労災保険に特別加入できる一人親方の条件
労災保険の特別加入ができる一人親方には、一定の条件があります。
具体的には、個人事業主や法人の代表者で、自ら現場作業に従事している人が対象です。
また、労働者を雇う日数が年間で100日未満であれば、従業員がいる場合でも一人親方として扱われます。
さらに、会社に所属していても請負という形で仕事をしている場合や、仲間と作業をしていても互いに雇用関係がないケースも含まれます。
見習いとして働いている場合でも、雇用契約がなければ対象です。
一人親方が労災保険に特別加入する方法
一人親方が労災保険に特別加入するには、まず加入する団体を選ぶことから始めましょう。
次に、補償額の基準となる給付基礎日額を自身の収入に合わせて決定します。
そのうえで必要書類を提出して登録すると、会員証や加入証明書が発行され、現場で提出できるようになるのです。
作業内容によっては健康診断が必要となる場合もあります。
この手続きを進めることで特別加入が完了し、労災保険の補償を受けられる状態になります。
労災保険は、インターネットからでも加入可能です。
インターネットからの加入方法は、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:一人親方はインターネットで労災保険に加入できる?流れや費用、補償を解説
一人親方の労災保険に関するよくある質問
労災保険に関して疑問を抱える一人親方もいるでしょう。
続いては、一人親方の労災保険に関しての質問に回答していきます。
労災保険の特別加入にかかる費用は?
一人親方が労災保険に特別加入した場合にかかる費用には、下記が挙げられます。
- 労災保険料
- 入会金
- 組合費
- そのほか諸経費
労災保険料は国が定めているものであり、すべての特別加入団体で同じ保険料となります。
それ以外の費用は、各団体の経営方針に則ってそれぞれ独自に決められるため、できるだけ安く抑えたい方は、入会金や組合費、そのほかの費用が安い団体を選ぶとよいでしょう。
例えば一人親方団体労災センターの場合は、労災保険料・入会金・組合費だけでほかの費用は一切かかりません。
一人親方の労災保険未加入は違法?
一人親方が労災保険に加入していなくても、特別加入は任意なので違法ではありません。
ただし、従業員を雇っているのに労災保険に加入させていない場合は法律違反となり、罰則の対象になります。
また、未加入のまま仕事をしようとしても建設現場への入場時に加入証明の提出が求められるため、隠すことはできませんし、隠して働くと信用を失う原因になり、契約トラブルにもつながる点は注意が必要です。
労災保険の代わりとなる制度や保険はある?
一人親方は、公的な労災保険の代わりに民間の傷害保険や財団法人の制度を利用できます。
民間の傷害保険は、けがによる入院・通院や収入減少を補償しますが、労災保険のような全額補償ではなく、契約内容に応じて支払額が変わります。
補償範囲が広い一方で保険料が高い傾向にあるため、加入前に内容をよく確認しましょう。
また「あんしん財団」や「日本フルハップ公益財団法人」のような民間の財団法人でも、月額の会費でけがの補償や福利厚生、安全対策の助成などが受けられます。
労災保険への特別加入を検討している方は一人親方団体労災センターへ
労災保険への加入を検討している一人親方には「一人親方団体労災センター」をおすすめします。
一人親方団体労災センターでは、労災保険料と月額500円の組合費だけで利用できます。
初年度のみ入会金が必要となりますが、更新料や申請手数料などの追加費用は一切かかりません。
また、入金確認後は最短で翌日から補償が開始されるため、急ぎの現場に入る場合でも対応できます。
コストを抑えつつ、安心して働くための制度を利用したい方は、ぜひ一人親方団体労災センターをご検討ください。
まとめ
一人親方が労災保険に加入していないと、仕事中のけがによる治療費には健康保険が使えないので全額自己負担になるだけでなく、働けない期間の収入が途絶えるなど、大きな負担を抱えてしまいます。
また、労災保険未加入が理由で仕事を受けられないケースもあり、事業の継続にも影響します。
建設業には危険を伴う現場が多く、経験豊富な方でも事故を完全に防ぐことはできません。
労災保険に特別加入していれば、治療費の補償や休業中の収入補填、後遺障害や死亡時の給付などが受けられ、安心して仕事に取り組むことができます。
また、加入していることで信用が得られ、仕事を受けやすくなる点も大きなメリットです。
安全に働き続けるためにも、一人親方は労災保険への加入を検討しましょう。
