建設現場では元請や下請などさまざまな業者が入って仕事をしているため、労災保険の取り扱いは一般的な事業とは異なります。
建設業に携わる方は「単独有期事業」や「一括有期事業」などの仕組みを理解したうえで労災保険の加入手続きする必要があるのです。
本記事では、単独有期事業と一括有期事業の違いや建設業における労災保険の仕組み、手続きの方法などを解説します。
Contents
労災保険の単独有期事業とは?

労災保険の単独有期事業とは、予定期間内に所定の目的を達成して終了する事業のことです。
事業期間の有無によって「継続事業」と「有期事業」に分けられます。
| 種類 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 有期事業 | 事業期間が決められた事業 | 大規模事業(一括)と小規模事業(単独)に分かれ、建設事業や立木の伐採の事業などが該当 |
| 継続事業 | 事業期間が決まっていない事業 | 本社や事務所、営業所、工場、商店など一般事業が該当 |
建設業は工作物の完成までの作業全体を1つの事業として取り扱い、工事の完了と同時に事業を終了するケースが多く、原則として有期事業に該当します。
有期事業が労災保険に加入する際は、事業を開始するときに労働基準監督署へ手続きが必要です。
事業ごとの特徴と労災保険への加入方法
労災保険と雇用保険の総称を労働保険と言い、労働保険適用事業のうち建設業は二元適用事業に該当します。
| 労働保険適用事業 | 労働保険の手続き方法 | 労災保険と雇用保険の適用者 | 業種 |
|---|---|---|---|
| 一元適用事業 | 一括で行う | 同じ | 一般的な事業 |
| 二元適用事業 | 個別に行う | 異なる | 建設業や農林水産業 |
ここでは、単独有期事業と一括有期事業の特徴と労災保険への加入方法を詳しくみていきましょう。
単独有期事業とは
単独有期事業とは、事業期間が予定される事業のことを言い、保険関連の手続きが工事毎に必要です。
主に、建設の事業や立木の伐採の事業などが当てはまり、労災保険は工事ひとつずつでの適用となります。
この事業区分に該当するかどうかを判断する基準は、主に以下の2つです。
- 請負金額が1億8,000万円(税抜)以上
- 概算保険料が160万円以上
これらの基準は、その工事が大規模であり、労災リスクを個別に評価・管理する必要があることを示しています。
一括有期事業とは
一括有期事業とは、一定の要件を満たす小規模で2件以上の単独有期事業を年間で一括して1つの事業とみなし、労災保険を適用するものです。
これは、年間を通じて多くの事業をおこなう場合に、その都度保険の手続きを行うわずらわしさに配慮した制度であり、主に建設事業や立木の伐採などの小規模な事業が当てはまります。
年度更新時に申告と保険料を納付し、保険の申請は事業を開始したとき、終了したとき、2つのタイミングで必要です。
<一括有期事業に該当する要件>
- 事業主や各事業の労災保険担当事務所が同一である
- 各事業がほかの事業の一部または全部と同時に行われる
- 各事業の概算保険料が160万円未満である
- 各事業が有期事業である
請負金額が1億8,000万円未満(税抜)の建設事業や、素材の見込生産額が1,000立方メートル未満の立木伐採の事業は一括有期事業に該当する可能性があります。
もし保険料額や請負金額、素材見込生産量が要件より増加した場合でも一括有期事業とみなされます。
一括有期と単独有期の違い

一括有期事業と単独有期事業の主な違いは、概算保険料額の基準や手続き方法が異なることです。
| 種類 | 概算保険料 | 手続き方法 | 該当事業 |
|---|---|---|---|
| 一括有期事業 | 160万円未満 | まとめて労災保険に加入 | 要件を満たす複数の建設事業や立木伐採などの小規模事業 |
| 単独有期事業 | 160万円以上 | 工事毎に手続きが必要 | 道路やダム建設工事などの大規模建設業や林業 |
一括有期事業は、労災保険手続きにおいて労働基準監督署へ「保険料申告書」に加えて「一括有期事業報告書」や「一括有期事業総括表」の提出が必要です。
また、一括有期事業の建設業の元請は、「労災保険関係成立票(様式第25号)」「建設業の許可票」「建築基準法による確認表示板」を現場に掲示するよう義務付けられています。
労災保険の分類と各メリット制について
労災保険の適用対象となる事業は、単独有期事業、一括有期事業、継続事業に分類されます。
労災保険制度では「メリット制」により、連続する3年度において最後の年度の翌々保険年度に還付が受けられる場合があります。
たとえば、令和4年度〜令和6年度に該当していた場合は、令和8年度にメリット制が適用されるイメージです。
労働保険料の年度期間は4月から翌年3月末までとなっています。
メリット制では「確定保険料」と、保険給付や保険料を基に算定したメリット収支率に応じて増減する「改定確定保険料」の差額に応じて、追加徴収または還付が行われます。
単独有期事業のメリット制
単独有期事業のメリット制は、以下の要件を満たすと適用されます。
| 平成23年度以前 | 平成24〜26年度 | 平成27年度以降 | |
|---|---|---|---|
| 確定保険料額 | – | 100万円以上 | 40万円以上 |
| 請負金額 | 1億2,000万円以上(税込) | 1億2,000万円以上(税込) | 1億1,000万円以上(税抜) |
立木伐採事業で単独有期に該当するケースは、確定保険料額100万円以上または素材生産量1,000立方メートル以上の場合です。
単独有期事業では、事業終了後に一度精算した保険料を増減するイメージです。
事業終了日から50日以内に確定保険料の精算を行います。
一括有期事業のメリット制
一括有期事業のメリット制の適用要件は以下のとおりです。
<一括有期事業のメリット制適用要件>
- 労災保険加入継続:3年以上
- 各年度の確定保険料額:40万円以上
連続する3年間の確定保険料額が100万円以上なら増減範囲は ±40%。
40万円以上100万円未満の年度があれば ±30%。
立木の伐採事業は最大 ±35%。
継続事業のメリット制
継続事業のメリット制適用には、以下の要件を満たす必要があります。
<継続事業のメリット制適用要件>
- 労災保険加入継続:3年以上
- 3年間の平均雇用人数:100人以上、または 20〜100人未満で災害度係数0.4以上
継続事業に必要な労働者数は業種により異なり、建設業(既設建築物設備工事以外)は45人以上、その他の建設事業は28人以上です。
保険料率は過去3年間の災害率により変動し、災害が少なければ下がり、多ければ上がります。
単独有期事業の各種手続きと書類提出期限

建設業における単独有期事業の各種手続きと書類提出期限について解説します。
工事を開始した場合
単独有期事業が工事を開始したときは、保険関係成立届と概算保険料納付が必要です。
| 手続き内容 | 必要書類 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| 保険関係成立の届出 | 保険関係成立届(様式第1号) | 労働基準監督署 | 事業開始日から10日以内 |
| 概算保険料の申告と納付 | 労働保険概算保険料申告書(様式第6号)、納付書 | 監督署、労働局、日本銀行・金融機関等 | 事業開始日から20日以内 |
工期が半年以上・概算保険料75万円以上なら申請により分割納付できます(年3期)。
工期を変更した場合
変更が生じたら「名称・所在地等変更届」を提出します。
| 手続き内容 | 必要書類 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| 変更事項の届出 | 名称・所在地等変更届(様式第2号) | 労働基準監督署 | 変更日から10日以内 |
工事が終了した場合
工事終了後、確定保険料の申告を行い、過不足を精算します。
| 手続き内容 | 必要書類 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| 確定保険料の申告 | 概算・確定保険料申告書(様式第6号) | 監督署、労働局、金融機関 | 終了日から50日以内 |
| 還付請求 | 労働保険料還付請求書(様式第8号) | 監督署・労働局 | 確定申告書と同時 |
メリット制が適用された場合
単独有期事業でメリット制が適用されると、確定保険料申告後に労働局から通知書が届き、記載金額を清算すると還付が受けられます。
2年以内に請求しないと時効で無効になるため注意してください。
| 手続き内容 | 必要書類 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| メリット制適用時の還付請求 | 労働保険料還付請求書(様式第8号) | 労働基準監督署または労働局 | 通知翌日から10日以内(時効:2年) |
まとめ
建設業における労災保険制度では、単独有期事業の仕組みと事業分類を理解することが重要です。
工事規模や事業ごとに手続きや保険料率が異なるため、適切に申告・手続きを行いましょう。
複数の小規模現場を持つ事業者は一括有期事業制度を活用すると手続きが簡素化できます。
一人親方は「特別加入制度」を利用して補償を確保することが大切です。
