一人親方労災保険の「労災センター通信」

うつ病などの精神疾患も労災保険の対象!要件や申請手順を解説

 仕事のストレスやハラスメントが原因で、うつ病などの精神疾患を発病する方が増えています。心身の不調で治療を受けたり休業したりする場合、労災保険は使えるのでしょうか?
 この記事では、うつ病などの精神疾患で労災認定を受けるための要件や、労災保険の申請手順を解説します。認定されなかった場合の対処方法もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
労災保険精神疾患

うつ病などの精神疾患も労災保険の対象になる

 仕事のストレスや、職場でのハラスメントが原因で、うつ病などの精神疾患を発病する方が増えています。病院で治療を受けたり休業せざるを得ない状態になったりするケースもあり、その場合は労災保険を使って保険給付を受けることも可能です。
 ただし、精神疾患と業務とのつながりを証明することは難しい場合が多く、正しく判断するために調査時間がかかったり認定されにくかったりするといわれています。
 厚生労働省では、1999年(平成11年)に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を定め、労災認定を行ってきました。しかし、精神疾患はさまざまな理由で発病するため、直接の原因を判断するのは簡単ではありません。
 そこで、厚生労働省は2011年(平成23年)12月に、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定め、誰が見てもわかりやすい認定基準にもとづいて労災認定を行うようにしています。
 ここでは、厚生労働省の「認定基準」を参考にして、労災保険における精神疾患について、過去5年間の認定率とともに解説します。

労災保険における精神疾患とは

 うつ病などの精神疾患を発病した際に労災認定されるには、「発病の直接の原因が仕事による強いストレスによるものである」と判断される必要があります。仕事による強いストレスには、「事故や災害の体験」「極度の長時間労働」「経営に影響するほどの大きな失敗」などが挙げられます。
 しかし仕事以外の原因、またはいくつかの原因が合わさって、精神疾患を発病するケースも珍しくありません。
 仕事以外のストレスには、「自分自身や家族・親族に関する出来事」「金銭問題」などが挙げられます。また、既住歴やアルコール依存症など、「個体側要因」も発病の原因のひとつです。
 そこで、発病の原因を医学的に慎重に判断して、労災認定は行われます。

精神疾患による労災保険の認定率

 精神疾患による労災保険の認定は決して簡単ではなく、認定率も高くはありません。ここでは、過去5年間の精神疾患による、労災保険の認定率を表にまとめます。

区分 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
精神障害 36.8% 32.8% 31.8% 32.1% 31.9%
うち自殺 47.7% 47.1% 38.2% 47.6% 45.3%

 参考:厚生労働省「精神障害の労災補償状況」

 精神疾患による労災保険の認定率は、30%台で決して高い数字ではありません。被災労働者が自殺に至るケースでの認定率は若干上がりますが、それでも50%以下です。
 この数字は、労災請求が増えているものの、「仕事による強いストレスが原因で発病した」と判断するには時間がかかることを表しています。
 これに対して厚生労働省は、2020年に認定基準の「具体的出来事」に「パワーハラスメント」を加え、改正を行いました。このように、認定基準の見直しをすることで、審査の迅速化や、被災労働者に対する適正な補償へとつなげる努力がなされています。
 被災労働者や、家族・同僚などその周囲にいる協力者も、認定基準を理解して、仕事のストレスによる精神疾患に対して、すぐに対応することは大切です。また、認定基準の理解が、仕事のストレスによる精神疾患の発病や、自殺の防止につながることも期待されています。

うつ病などの精神疾患が労災認定を受けるための要件

労災保険に関する注意点
 うつ病などの精神疾患が労災認定を受けるには、以下の3つの要件が考慮されます。

  • 認定基準の対象となる精神疾患であること
  • 業務による強い心理的負担が認められること
  • 業務以外の心理的負担による発病と認められないこと

 労災認定を受けるには、これら3要件を満たす必要があり、客観的事実や証拠を含め、医学的に慎重に判断します。
 ここでは、それぞれの要件について解説します。

認定基準の対象となる精神疾患であること

 精神疾患に関しては、国際疾病分類第10回修正版(ICD‐10)第5章「精神および行動の障害」で以下のように分類されています。

分類コード 疾病の種類
F0 症状性を含む器質性精神障害
F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害
F2 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
F3 気分(感情)障害
F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害
F7 精神遅滞(知的障害)
F8 心理的発達の障害
F9 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害

 引用:厚生労働省「精神障害の労災認定」

 業務によるストレスで発病する精神疾患は、うつ病(F3)や、急性ストレス反応(F4)などが多いといわれています。なお、認知症・頭部外傷による障害(F0)や、アルコール・薬物による障害(F1)は対象外です。

業務による強い心理的負担が認められること

 労災認定を受けるには、労働基準監督署の調査により、業務による強い心理負担が認められなければなりません。
 判断基準として、心理的負担の強度が「強」「中」「弱」に分かれています。
 「強」に分類されるのは「特別な出来事」で、業務による強い心理負担があったと認められます。
 「強」に分類され、労災認定の2つ目の要件を満たす出来事には、以下のようなものがあります。

  • 重度の病気やケガをした
  • 業務に関連する重大な人身事故または重大事故を起こした
  • 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした
  • 退職を強要された
  • 上司から身体的および精神的攻撃などのパワハラを受けた
  • .発病直前に極度の長時間労働があった

 また、「中」「弱」と判断される複数の出来事をまとめて、総合的に「強」として取り扱うケースもあります。

業務以外の心理的負担による発病と認められないこと

 3つ目の要件として、「業務以外の心理的負荷評価表」にもとづく心理的負荷を判断します。業務以外の心理的負担が、精神疾患の主な原因であると判断される場合は、3つ目の要件を満たさないため、労災認定が下りません。
 心理的負荷が強いと判断される出来事には、以下のようなものがあります。

  • 夫婦の別居や離婚
  • 重い病気または流産
  • 配偶者・子ども・親・兄弟の死亡
  • 親類から世間的にまずいことをした人が出た
  • 多額の財産を損失した
  • 天災や火災または犯罪に巻き込まれた

 これに加えて、精神疾患の既往歴やアルコール依存状況など、「個体側要因」も考慮されます。

うつ病などの精神疾患で労災保険の申請をする手順

 仕事のストレスが直接の原因で、うつ病などの精神疾患を発病した場合、労災保険の申請を行います。会社によっては、担当者が労災申請の手続きをしてくれる場合もありますが、原則として申請手続きを行うのは被災労働者かその家族です。
 ここでは、うつ病などの精神疾患で、労災保険の申請をする手順を解説します。

医療機関に受診して治療を受ける

 うつ病などの精神疾患を発病した場合は、医療機関に受診して治療を受けます。労災認定されるための要件には、労災対象の精神疾患と診断される必要があり、継続的な診察は労災認定の判断材料にもなると考えられます。
 労災指定医療機関を受診する場合は、労災であることを伝えると、自己負担なしで療養が受けられ手続きがスムーズです。ただし、精神疾患によっては対応できない場合もあるため、事前に問い合わせるとよいでしょう。
 労災指定医療機関以外の場合は、一時的に全額自己負担で療養を受け、労災認定を受けると、かかった費用がすべて返還されます。

申請書を労働基準監督署に提出する

 会社に事情を伝えると、担当者が労災申請手続きを代行してくれる場合があります。会社が労災申請に協力的でない場合は、被災労働者自身が申請書を作成し、直接労働基準監督署に提出します。
 「療養補償等給付」「休業補償等給付」かに応じて、厚生労働省の公式サイトから申請書のダウンロードが可能です。
 申請書には会社の証明欄がありますが、証明が得られない場合は、その旨を記載して労働基準監督署に提出します。労災指定医療機関を受診している場合は、病院経由で労働基準監督署に提出する流れです。

労働基準監督署による調査と決定

 労災保険の申請受付後に、労働基準監督署による調査が行われます。
 これには、被災労働者や会社関係者・担当主治医への事情聴取も含まれます。また、労災認定につながる可能性のある各資料の提出も可能です。
 例えば、極度の長時間労働があった場合は、タイムカードやパソコンのログイン履歴など、労働時間に関する記録があるとよいでしょう。また、ハラスメントの事実を証明する録音や、同僚による供述書なども、裏付け証拠として有用です。
 労働基準監督署による調査が完了すると、労災支給または不支給の決定が知らされます。

精神疾患による労災認定が下りなかった場合の対処方法

 精神疾患による労災認定の判断は難しく、時間がかかるだけでなく、認定率も30%台で決して高い数字ではありません。そこで、精神疾患による労災認定が下りなかった場合の対処方法も考えておく必要があります。
 まず、労災認定の決定に対して不服がある場合、労働者災害補償保険審査官に対して「審査請求」ができます。申請できる期間は、不認定の通知を受けてから3ヵ月以内です。
 「審査請求」が認められない場合は、労働者災害補償審査官による棄却決定書の謄本が送付された日の翌日から2ヵ月以内に、労働保険審査会に「再審査請求」を行えます。「審査請求」「再審査請求」が認められない場合は、6ヵ月以内に労災不認定処分の取り消しを求める「行政訴訟」を裁判所に提起できます。
 精神疾患が労災認定されなかった場合に、健康保険から「傷病手当金」がもらえるケースもあります。傷病手当金の支給条件は以下のとおりです。

  • 業務以外の事由によるケガや病気の療養のための休業である
  • 仕事に就くことができない状態である
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった
  • 休業期間について給与の支払いがない

 傷病手当金が支給される期間は、支給開始から通算1年6ヵ月です。

一人親方はそもそも労災保険対象外!特別加入制度について

 仕事のストレスが原因で精神疾患を発病して労災認定されると、労災保険の手厚い補償が受けられます。しかし、一人親方は労災保険対象外であるため注意が必要です。
 一人親方は労働基準法が定める「労働者」に該当せず、労災保険を利用するには、特別加入制度を活用しなければなりません。
 労災保険に特別加入するには、特別加入団体を通して申し込む必要があります。「一人親方団体労災センター」は、全国規模で一人親方の特別加入をサポートし、労災事故の際も追加料金なしで申請書類の作成をしてくれ安心です。

まとめ

 うつ病などの精神疾患を発病した際に、労災認定を受けるための要件をまとめました。
 近年では「パワハラ防止法」が施行されるなど、労働環境向上のため対策がなされています。それでも、仕事上のストレスやハラスメントなど、強度の心理的負担を受ける場合があり、精神疾患を発病するリスクは存在します。
 業務災害のリスクは、「労働者」に該当しない一人親方にもあるため、特別加入制度を活用して備えておくと安心です。

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