建設業の一人親方は、働き方に応じた社会保険への加入が義務づけられています。しかし、自分自身で加入すべきなのか会社を通じて加入するのかが曖昧で、社会保険未加入の方もいるようです。実は建設業では、保険料の費用負担が経営を圧迫するなどの理由で、社会保険未加入の事業者が少なくありません。
そこで本記事では、建設業における社会保険未加入問題とそのリスクについて解説します。社会保険は全国民が加入する権利と義務を持ち、ケガ・病気や老後の生活を守る重要な国の制度です。社会保険への加入を適切に行い、自分自身と家族の生活を守りましょう。
Contents
抜け道なし!建設業の一人親方も社会保険への加入は必須
建設業では、元請け事業者が工事を受注して下請け事業者に発注し、さらにそれが孫請けに発注される「重層下請け構造」になっています。そのため単独企業のように労務管理を一貫して行うのが難しく、とくに下請け事業者を中心に、法定福利費である社会保険を適正に負担していない事業者は少なくありませんでした。
しかし近年では、国土交通省により社会保険未加入問題への対策が強化され、社会保険未加入の業者を排除する取り組みが行われています。社会保険への加入は費用の負担があるため抜け道を使って回避していた業者も、今では社会保険への加入が必須です。そしてこれには、独立して工事を請け負う一人親方も含まれます。
【働き方別に解説】建設業の一人親方が加入する社会保険とは
「社会保険に加入したくないから一人親方になってほしい」と言われたことのある方もいらっしゃるかもしれません。しかし建設業の一人親方も、働き方に応じて自分自身で、または会社を通じて社会保険に加入しなければなりません。
ここでは2つの働き方に分けて、加入する必要のある社会保険について解説します。
労働者の働き方に近い一人親方
独立して建設業の一人親方として働いている方でも、労働者の働き方に近い場合は、会社を通じて社会保険に加入する必要があります。国土交通省によると、「労働者性がある」と認められる働き方の例は以下のとおりです。
- 仕事先から意に沿わない仕事を頼まれても自分の判断で断る自由はない
- 仕事が早く終わったときなどに仕事先から予定外の仕事を求められた場合に断る自由はない
- 仕事先の会社の就業規則など服務規律の適用を受けている
- 仕事先から仕事の就業時間(始業・就業)を決められている
- 当日の仕事が早く終わったときに自分の判断で仕事を終えることはできない
- 仕事先から毎日細かな指示や具体的な指示を受けて働く
- 都合が悪くなり頼まれた仕事を行えない場合、仕事先が代わりの者を探す
- 仕事で使う機械・器具・材料は仕事を依頼した会社が提供する
- 報酬は1日あたりの単価など働いた時間による
労働者の働き方に近い一人親方が加入する社会保険を、以下にまとめます。
労働者の形態 | 加入する社会保険 | |
株式会社など法人に勤めている労働者 |
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個人経営の事業所に勤めている労働者 | 常時使用する労働者が5人以上 | |
常時使用する労働者が5人未満 |
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日雇い労働者 |
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参考:国土交通省「【一人親方向け】みんなで進める一人親方の保険加入」
請負の働き方に近い一人親方
請負で働く一人親方は、事業主として自分自身で社会保険に加入します。請負の働き方に近い一人親方の例を、以下にまとめます。
- 意に沿わない仕事は自分の判断で断る自由がある
- 仕事が早く終わった後、予定外の仕事を頼まれたとしても断る自由がある
- 仕事先の会社の就業規則など服務規律の適用を受けていない
- 毎日の仕事量や進め方などは一任されており、自分の裁量で判断できる
- 仕事が早く終わった後に、別の現場での仕事も行っている
- 都合が悪くなった場合は自分の判断で代わりの者を探す
- 自身の責任によるミスや作業遅延で発生した損害は自分が負担する
- 仕事で使う機械・器具は自分で持ち込む
- 仕事で使う材料はすべて自分で調達する
- 工事の出来高見合いで報酬が支払われる
事業者である一人親方が加入する社会保険は、以下のとおりです。
- 市町村国保または国保組合
- 国民年金
- 労災保険(特別加入)
建設業の一人親方が社会保険に加入するメリット
建設業の一人親方が社会保険に加入するメリットは数多く、具体的には以下のようなものが挙げられます。
- ケガや病気の際の医療費が安くなる
社会保険未加入の場合、ケガや病気の際の治療費は全額自己負担しなければなりません。国民健康保険に加入していれば、治療費の3割を支払うだけで負担が軽減されます。特別加入労災保険に加入していれば、仕事中のケガや病気の治療費は全額補償され、休業中も保険給付を受けられます。 - 老後の生活に備えられる
社会保険に加入していれば、老後で働けなくなった場合でも一定の収入が得られるようになり安心です。請負で働く一人親方は厚生年金に加入できませんが、国民年金に加入することで老後も年金の給付を受けられます。第1号被保険者に該当する一人親方は、国民年金基金に加入して国民年金に上乗せすることも可能です。 - 障害や死亡時の補償が受けられる
労働者が会社をとおして加入する労災保険には「障害(補償)給付」や「遺族(補償)給付」があります。仕事中の事故で障害が残った場合や死亡した場合に、給付金を受け取ることが可能です。一人親方の場合は、労災保険の特別加入制度を活用することで、労働者と同様の補償が受けられるようになります。
建設業の一人親方が社会保険未加入の場合のリスク
多重構造で一貫した労務管理が難しい建設業では、社会保険未加入の下請け事業者や一人親方が一定数存在するようです。故意にせよ知らずにせよ、一人親方が社会保険未加入で働くことにはリスクがあります。
ここでは、建設業の一人親方が社会保険未加入の場合のリスクを大きく2つご紹介します。
仕事の受注が困難になる可能性
建設業の一人親方が社会保険未加入の場合のリスクとして、仕事の受注が困難になる可能性が挙げられます。
前述のように、国土交通省は社会保険未加入業者を排除する取り組みを行っており、たとえば公共工事の入札には社会保険への加入有無の確認が必要です。また「建設キャリアアップシステム制度」により、すべての建設業従事者の社会保険加入状況が簡単に確認できるようになっています。
社会保険未加入者の現場立ち入りを禁止する取り組みにより、うっかり社会保険への加入を忘れてしまった一人親方が現場に入れないことも。社会保険未加入のまま放置していると、仕事の受注ができなくなる可能性が高いため、迅速な対応が必要です。
万が一の事故のときに補償が得られない
建設業の一人親方が社会保険未加入の場合のリスクに、万が一の事故のときに補償が得られないことも挙げられます。
建設現場での労働は、事故のリスクと隣り合わせです。安全対策を徹底していても、万が一の事故にあう可能性があります。社会保険未加入の状態で事故にあうと、ケガや病気の治療費が全額自己負担になるだけでなく、休業中に収入が得られずに生活が困難になることも。
また国民健康保険に未加入の場合も、仕事以外のケガや病気でかかる治療費が全額負担になり、医療費が生活を圧迫すると考えられます。どれだけ注意していてもケガや病気のリスクは避けられないため、社会保険への加入により万が一に備えておくことは重要です。
【番外編】偽装請負になっていないか確認を
一人親方のなかには、「知らぬ間に偽装請負になっていた」場合もあるようです。偽装請負とは、形式上は請負契約でも実態は労働者として働いていることを指します。「社会保険を払いたくないから一人親方になってほしい」と言われるようなケースでは、偽装請負の可能性が高いため注意が必要です。
偽装請負になっている場合は、雇用主側に社会保険の加入義務が生じ、未加入であることが発覚すると罰則が生じます。具体的には、最大2年分の社会保険料の追徴金や「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が課せられる可能性が考えられます。
もしものときにも安心!一人親方が加入できる労災保険の特別加入制度とは
請負で働く一人親方は、自分自身で国民健康保険や国民年金など社会保険に加入する義務があります。しかし、労災保険に関しては任意で加入できることになっています。任意とはいえ、建設業の一人親方は仕事中の事故にあうリスクがあるため、労災保険に特別加入していると安心です。
一人親方は特別加入団体をとおして加入手続きを行い、一人親方を労働者とみなして労災保険を適用します。労働局の承認を受けた特別加入団体である「一人親方団体労災センター」は、全国規模で一人親方の加入手続きをサポートしています。「なるべく格安の費用で加入したい」「明日までに労災保険の加入が必要」などのご要望・お悩みは、当センターまでお気軽にご相談ください!
まとめ
建設業における社会保険未加入問題とリスクについてまとめました。
社会保険に加入するには費用がかかるため、抜け道を探して未加入の状態で働く下請け業者や一人親方がいます。しかし国土交通省により、社会保険未加入者の現場立ち入りを禁止する取り組みが行われており、仕事の受注が困難になる可能性があるため注意が必要です。また万が一の事故で補償が得られなくなるため、事故のリスクを抱えつつ働く建設業の一人親方にとって、社会保険加入は必須であるといえます。
一人親方は働き方に応じて自分自身で、または会社を通じて社会保険に加入しなければなりません。請負で働く一人親方の場合、任意の労災保険特別加入制度を活用すると安心です。